連載2

□忍び寄る、それは
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真夜中、エアリスに揺り起こされてサラサは目を覚ました。
眠たい目を擦りながらエアリスの話に耳を傾ける。明日でも良いのではないかと思ったがサラサは言葉にしなかった。エアリスがあまりにも真剣な顔をしていたからだ。

「忘らるる都?」
「し―! みんな起きちゃう」
「ごめん」
「それでね」
「着いてく」
「え?」
「着いてく」
「……いいの?」
「うん。一緒にいく。エアリス、一人にしちゃ駄目って言ってるから」

寝ぼけているからだろうか。二人きりだけの宿屋の部屋でサラサが奇妙にもそう言ったからエアリスは首を傾げた。

「誰が?」
「分からない。でも心がそう叫ぶから。だから着いてく」
「……ありがとう」
「?」
「行こっか」
「ん。レギオン」

サラサは小さな相棒の名を呼ぶ。すると枕の横で丸まっていた彼はサラサの肩に飛び乗った。小さく鳴いた彼をひと撫でして落ち着かせると立ち上がってエアリスの後を追った。






真っ白な毛並みのチョコボに乗って二人は地を駆けた。
チョコボはレギオンである。
サラサの相棒であるレギオンには特殊な能力がいくつかあり、変身能力はそのうちのひとつだった。
サラサはそれを知らなかったのだがエアリスは知っていたらしく、旅の始まりの日にそう教えてくれたのだ。
前に乗ったサラサの腹にエアリスは手を回し背中に顔を埋める。道中会話はなく暫くはレギオンが地を駆ける音が響いていた。

「寒くない?」
「平気。サラサ、暖かいから」
「そっか。でも我慢しないでね。スピード落とせるから」
「大丈夫。このまま進んで」
「わかった」

夜風は身を切るような冷たさだ。それに加えレギオンはそこらのチョコボよりも速く走るから、全身に強風が吹き付ける。外套を着せサラサが壁になっているとはいえ寒さを凌げようはずもなかった。

「ねぇ、サラサ」
「なぁに?」
「昔の話、してもいい?」

エアリスの指す昔の話とはサラサが無くした記憶のことだ。エアリスは仲間内の中で唯一サラサが知らないサラサ自身を知っているのだ。それでも今まで無遠慮に過去の話はしなかった。エアリスはそういう気遣いの出来る娘(こ)だった。
それをいきなりどうしたというのだろうか。逡巡してサラサは、いいよ、と一言頷いた。思い出せる切っ掛けになるのではと思ったのだ。

「サラサとはね、私が通っていた教会で会ったの」
「へぇ」
「サラサは歌、歌ってた。綺麗な歌。だけど少し悲しい、そんな歌。でもね、きらきら輝いてた。私その時、サラサのこと、女神様だって、本気でそう思ったんだよ」
「女神様、」
「歌ってる間しか見えないんじゃないかって考えたら、声、かけられなかった」
「歌が終わったら、消えてしまうから?」
「うん
「どうだった?」
「少ししたら、消えちゃった」
「ほんとに消えたんだ?」
「でもまた会いにきてくれた。私の変わらない日常に色がついたの。きらきら輝く綺麗な色。私の大切な思い出」
「……その歌のタイトル、知ってる?」
「わからない。サラサも知らないって言ってたから」
「そっか」
「もう一度歌ってほしいな。何度もそうやってせがんだの。……でももう無理なんだよね」
「どうして? 思い出したら歌えるよ?」
「……うん。そうだね」
「エアリス?」
「なんでもない。なんでもないの」

背中に顔を埋めたエアリスは小さく震えていた。
寒さからではないだろうその震えにサラサは困惑を浮かべながらも掛ける言葉を見つけれず押し黙る。余計な言葉をかけて彼女を悲しませたくなかった。

「ごめんね」

ポツリと彼女がそう言った。何に対する謝罪なのかサラサには見当がつかなかった。
一際冷たい風が吹いてサラサは肩を竦める。
心の隙間から侵食するような、そんな風だった。





忍びよる、それは
(大丈夫だよ)(そう言って貴女は笑う)(だけど、聴こえる星の声が)(全てを否定するの)



end
 

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