連載2

□ある研究者の日記帳
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○月×1日

私は神羅の研究者だ。ニブルヘイムという辺境の地に派遣され神羅屋敷の研究所にいる。社員私と後輩が一人、所長の宝条博士の3人だけだ。後輩は尊敬する宝条博士と一緒になれて喜んでいたが出世コースから外されたことに気づいているのだろうか。かくゆう私は憂鬱だ。
さて、私は日記なんぞ書く趣味は無かったが研究者として血の沸く出来事が起こったのでレポートの一環としてこれから書こうと思う。少々読みにくいだろうが私しか読まないだろうし関係ないだろう。

本日未明、この神羅屋敷に奇妙な出来事が起こった。
屋敷を震わせるほどの大きな震動が起こったのだ。立っていられなくて尻を打った。地味に痛かった。あれは地震の類いではないだろう。たまたま宝条博士も居られ、彼の指揮の元震動が止まってから生態研究室まで点検に行った。そこにはかつて空から来た災厄、セトラの民によって封印されたジェノヴァが保存されている。何かあっては大変だ。かくしてジェノヴァは無事であったが、生体ポッドへと続く部屋にひとりの少女が倒れていた。背中に大きな十字の斬り傷を宿し純白のドレスを血に染めて。
彼女は殆ど死にかけだった。息も絶え絶えの状態で一目見て分かった。彼女はもう助からないだろうと。長年研究をしているから分かるのだ。
どこから入ってきたのか。何故怪我をしているのか。先ほどの震動と関係があるのか。疑問は多々ある。けれど博士は何を思ったのか彼女を生体ポッドに入れろと仰った。この少女は実験サンプルになるのだろう。……可哀想に。



○月×2日

少女は生体ポッドの中で眠っている。一度も目を開けない。まるで屍のようだ。いやそもそも水の中を漂う彼女は精巧な人形のようでもあるから錯覚してしまう。最初から生きてはいないのだと。
そういえば博士が彼女の血液を保管して調べていたが結果はいつ分かるのだろうか。



○月×3日

彼女の血液の分析結果が出た。驚くべき結果だ。あり得ない! なんということだろう! 彼女の血液遺伝子はジェノヴァのそれと非常に近しいものだったのだ!配列、配色、染色体の数、核数、そのどれをとってもジェノヴァに近しい。多少の違いはあっても、だ。私たち人間と根本から違うのだ。
その事実に博士は歓喜に震えていたが私は違う。確かに彼女は生きた研究材料としてもっとも有効活用のしがいがある存在であることはとても魅力的だ。だがジェノヴァと殆ど同じ遺伝子を持っているということは、彼女はジェノヴァと同じ存在ではないのだろうか。この星の新たな災厄ではないのだろうか……。今はそうでなくても『近しい』ということは将来的にそうなるということではないだろうか。私の杞憂、なのだろうか。



○月×4日

本日、ジェノヴァの細胞を少女に移植することに相成った。埋め込む場所は背中の傷の中央、十字の斬り傷の交差点である。当初私は反対したが博士に逆らえるはずもなく手術は行われ恙無く終わった。成功したのだと思う。バイタルは安定。微弱ながらも呼吸はあり酸素濃度は89%と低いが安定している。術後は再び生体ポッドの中へと戻された。
彼女はジェノヴァになってしまうのではないだろうか。不安で仕方がない。



○月×5日

驚いた。あれだけの傷が癒えていた。あの致命傷の傷が、彼女を死に至らしめようとしていた傷がたった一晩で!! どんな治療を施してもなおらなかったのにあり得ないことだ。私は夢でも見ているのだろうか。
生体ポッドから出され本日より実験台での治療が始まる。とはいえ癒す傷など彼女は有していなかったが。幾つもの点滴に繋がれて彼女は漸く生きているのだと実感した。



○月×6日

彼女は未だ目を覚ますことはない。本日未明、博士は彼女を高濃度の魔晄ポッドに入れるよう指示を出された。それと同時にジェノヴァの血液を彼女に注入すると。無茶だと思った。だが何を言った所で彼には通用しないのだろう。どうしてこんなことになったのだか。ガスト博士……もう戻ってきてはくださらないのか。
ポッドの中で少女が苦しがっている。
許してくれとはいえない。



○月×7日

本日未明彼女は魔晄に満たされたポッドの中で僅かに目を覚ました。それと同時に胸元から左腕に掛けて刺青が浮かび上がった。良く見ると薔薇の模様をしている。薔薇と荊の模様だ。これがジェノバの細胞によるものなのか否かは分からない。が、宝条博士は実に愉快そうだったことだけは明記しておこう。彼女が目を覚ましたのは数分。ポッドの中で苦しがっていた。苦しみに耐えれなかったのかやがて意識を失うように眠りについた。
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