連載2

□ある研究者の日記帳
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×月×日

本日少女は目を覚まし、魔晄のポッドから出せと訴えかけてきた。ポッドのガラスを叩く蹴ると休みなく続ける。博士の指示でポッドから出せば掴みかかってくる勢いだったが一人で立つことすらままならず悔やんでいた。
意識ははっきりしている。言語障害はない。ただ記憶は曖昧だった。ここにきた経緯は分からないという。どうやって来たのかも。彼女は名を名乗った。『サラサ』というらしい。空腹を訴えてきたため食事を提供したら3日分を完食した。凄まじい食欲である。『普段はこんなに食べない。エネルギー必要だから、食べるの』とは彼女の言だ。明日はもっと食べるという。後輩に食料を買いに行かせた。足りるといいが。



×月××日

少女の回復能力は凄まじい。寝て、食べてをくりかえしたらリハビリもなしに歩けるようになった。また屋敷の外に出掛けてはいとも簡単にモンスターを狩ってくる。その度に探し回るこちらの身にもなって欲しい。今日も採血と点滴を繰り返す。もう必要ないと訴える彼女をなんとか宥めて点滴を射つ。博士は一体彼女をどうしたいのだろう。これ以上ジェノヴァの血液を投入するなんて。
彼女をジェノヴァにしたいのだろうか。屈託なく笑う彼女を災厄になどしたくない。……なって欲しくない、のだが。



×月2△日

今日もモンスター狩りに行ってきたらしい。全身血に染め上げて帰ってきた。幸いにも怪我はないらしく安堵した。しかし彼女の身体能力は素晴らしい。超人的だ。元々備わっていたものなのか、それとも度重なる実験の産物なのかは分からないが。かのセフィロスと同程度、或いはそれ以上か。そういえば彼は先日ソルジャー1stに昇格したらしい。中央のことを耳にするのも久しぶりだ。両親は元気にしているだろうか。



△月○日

本日最後の手術が行われる。彼女がここで過ごした記憶を消す手術だ。成功率は70%といった所か。ふとした瞬間に思い出すことがあるかもしれないが余程のことがない限り無理だろう。
これをもって“サラサプロジェクト”始動となる。
彼女は今後神羅カンパニーのソルジャー となる。彼女の監視・観察はこれからは本部の奴らの仕事だ。結局いいとこ全てもっていかれるのか。腹立だしいことこの上ない。後輩なんてあからさまにがっかりしている。
だが仕方ない。博士の命令に逆らえるはずもない。彼女にも今日までここで過ごした記憶はなくなるのだ。私のことも後輩のことも忘れてしまうのだろう。こんなに仲が良くなったのに。それが寂しくもある。
私は――






ここから先は欠損していて読めない。
これを書いた研究者が今どこで何をしているのか、分かる人は誰もいない。どうしてこの日記帳を置いていったのかも。
ただひとつ分かることはこの日記帳は彼女が確かにこの屋敷にいたことを証明する。彼女の身に何が起こったのかも。空白の数ヶ月を。
けれど今は。
誰の手に取られることなく神羅屋敷の一室で埃を被り眠っている。
記憶を求め彷徨う少女が再びこの地を訪れるその日まで――……。






end
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