連載2

□Alea iacta est
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私は彼を    。
私は彼女が     。
私は家族を    。
  を遂げようと。彼の側は  で、  、そして私は  だった。
一緒に  と   はずだった。
  な  。
      な――……。



『お前は生きろ!』

私は……!

『幸せに、な』

な、んで、おいてく、の








「……ゆめ、」

ベッドの中で目を覚ましたサラサは見慣れぬ天井を見つめぽつりと呟く。
しばらくぼんやりと感情のない瞳で虚空を見つめ、その紫色の魔晄の目に光が宿ってから漸くのそりと起き上がった。
くしゃりと前髪を掻き乱し隣でいまだ寝ている男を一瞥してサラサはベッドから降りると素足のまま窓へ向かいカーテンを開け放った。途端暗かった室内が光で満たされた。
超高層ビルの最上階から見下ろすのはミッドガルの街並みである。サーチライトに照らされる夜の物騒なミッドガルを見ることが多いサラサにとって太陽の光を浴びる街はなんだか不思議な感じがするのである。
コンクリートジャングルのようなミッドガルは別段美しいとも思えなかった。
ただ鈍色をした無機質な建造物が鈍色に輝いていて余計に冷たく感じるだけで、早朝独特の生き物たちの目覚めだとか、そういったモノは一切感じない。

「……何を見ている?」

背後から覆い被さってきた男が掠れた声で耳元でそう囁いた。男の金色の髪が太陽の光にきらきらと輝いた。

「……べつに、なにも」

服の上から肌の上をまさぐる男の手をそれとなく交わし抱擁から抜け出たサラサはガラスの壁を背凭れにして男を冷たく見据えた。

「ツレないな」
「添い寝“だけ”を御所望だったお前のお遊びに付き合う気はないぞ、ルーファウス」
「ふん。では次からはセックス込みの添い寝を希望するとしようか」
「やってみろ。その場で使いモノにならなくしてやる」
「手厳しいな。じゃじゃ馬は調教が必要か?」
「そういうプレイなら尚更他の女を当たるんだな」
「断る。お前を屈服させるのが面白いんだろう」
「ならば私はお前を服従させてやろうか」

ニィと笑みを浮かべてサラサは紫色の瞳を細める。だけれど途端に興味を失ったように視線はルーファウスから外された。
ルーファウスは訝しげに形の良い眉を寄せ眉間にシワを作る。いつもならここで互いを貶すような下らない応酬がある。それをルーファウスは思いの他気に入っていた。
ルーファウスの周りには自身の権力や威光に媚びへつらう連中ばかりで、それは男も女も変わりは無く辟易していた。そんな中でサラサは自身に気に入られようともせず、それどころか自身を敵にしようと動くから面白い。歯に衣着せぬ言い方は嫌いではないし、時に辛辣で毒舌たる言葉はいっそう愉快であり、品のない言葉も下品に聞こえないからこそ不思議と魅力もある。

「……どうした?」
「興が乗らない」

だからこそ不満を抱いての問いかけは、やはりサラサの冷めた表情に瞬殺された。
凍てつくような瞳はルーファウスを捉えることはなくぼんやりと空中を彷徨う。やがてはぁ、と珍しく盛大なため息が女の艶やかな唇から落とされた。

「夢のせいだな」
「夢? 随分と可愛らしいことを言う」

クツリ、と喉奥で笑った男を一瞥してサラサは視線を外した。デジタル時計の画面には8時15分と表示されていた。

「夢も馬鹿には出来ないぞ。夢見で占う人間もいる。夢はお告げだとも」
「くだらん。インチキな世迷い言など当たるはずがあるか」
「……私の母は当てていたがな」
「ほう?」

男の囲いを抜けるとサラサは隣室の浴室へ向かった。

「今日から本社勤務だ。もう辺境の地で野宿しなくてもいいらしい」
「借宿は今日で終わりか」
「ここは住み心地が良かったがな。次からは宿舎に帰るとするよ」
「枕はもう必要なしか?」
「残念なことにな。仕方ないから別のモノを探すことにするさ」

常に辺境の地にいるサラサにとって宿舎ほど無意味なものはなかった。元々持ち物もなく与えられた部屋に愛着もない。日常品など備え付けの物しかない部屋に、夜遅くに戻ったとしても掃除しないとベッドは埃だらけで使えないとくると億劫になるのは当然で、どうしても直ぐに寝れるような場所に行ってしまうのは習慣のようなものだった。
ルーファウスと知り合う前はホテルを使い、彼と知り合ってからはこの部屋や神羅の本社ビルにある彼の仮眠室がサラサの一時の借宿だった。どちらもホテルより格段に使いやすくまたお金がかからないため重宝していたのだが、先にも述べたように本社勤務となった今日より宿舎を寝床とすることを考えていたのだった。
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