連載2

□Alea iacta est
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一通りの支度を終わらせたサラサはクローゼットの中からコートを取り出した。
闇よりも深い漆黒の丈の長いコートに袖を通し、編み込まれた厚底のブーツを履く。ソルジャーの姿はルーファウスにとって最早見慣れたものだった。故にその厚底の中には毒の塗られたナイフやその他の武器が入っていることも勿論織り込み済みである。
サラサがコルセットのようなベルトをすると細い腰が更に際立った。まるでドレスを着ているかのような居で立ちだ。颯爽と歩けばその容姿と相まって注目を集めることは間違いない。
しかし武器を持たせれば軍隊一つ余裕で壊滅させてしまうほどの持ち主なのだから人とは本当に見かけによらないものである。

「ソルジャー1st・サラサ。1stでありながらも姿を知られていない謎のソルジャー。出生年齢家族構成容姿全て不明。女だてらにその活躍と謎故に神羅が作り出した仮想ソルジャーではないかと言われているが、昨今は女帝という名が周知されている。尾ひれのついた噂が噂を呼び、その姿はゴリラに近い怪力女だという説で定着しているが……お前のその容姿を見れば本社の奴らはこぞって驚くだろう。傑作だな。その場に居ないことが残念だ」
「ふん。噂に振り回される愚かな連中共だ。姿を確かめようともしない」
「仕方がないだろう? お前の姿を見た奴は総じて死ぬらしいからな」
「それも噂のひとつか?」
「そのようだな」
「馬鹿馬鹿しい。私は辺境の地に飛ばされているだけだ。ついでにそいつらも飛ばされて今も暢気に野宿してるだろうよ。……まぁ死ぬ奴もいるがな」
「助けるつもりもない、と」
「さぁな。それよりかの有名なセフィロスはどんな奴? 会ったことがない」
「なんだ、会いたかったのか?」
「別に。ただ同じ1stとして気になってはいた。容姿って噂通りでいいのか?」
「噂にもいくつかあるが?」
「2メートルはあるゴリラ、あるいは人間離れした美しさを持つ悪魔だとか。化物並みの体躯をして角があり舌が二つにわかれてるとか。悪魔の翼があるとか。あと社交界では銀の貴公子とも呼ばれていたみたいだな」
「どれだと思うんだ?」
「さぁな。個人的には見目麗しいほうがいいが」
「外れだ。2メートル近くあるゴリラだ。期待しないほうがいいぞ」
「……そうか。噂なんぞ所詮そんなものだよな。イイ男であって欲しかったが」
「何故だ?」
「どうせ視界にいれるなら見苦しくないものを選びたいだろ普通」
「ククッ……そうか。いや、お前はそういう奴だったな。俺の時もそうだった」
「別に外見だけで人間を決めるわけではないぞ? ただ宝石を嫌う人間なんぞいない、その思考と同じだ」
「なるほど。確かに一理ある。まぁ目の保養が必要になったらオレのところにくるといい」
「……お前のそういう自信過剰な所が私は嫌いではないよ」

くすりと苦笑にも似た笑みを溢したサラサは不敵に笑うルーファウスに背を向けて玄関へと向かった。銃弾をも弾く仕様となっているドアを開けると、背後から声が投げ掛けられた。

「浮気するなよ」

くすりと笑って扉が閉まる直前でサラサは振り返った。

「さぁな」

ばたん、と重々しい音と共に扉が閉まる。
隙間から見えたルーファウスの平静でない表情が面白くサラサは笑う。
夢のことなど疾うに忘れていた。







物語はここから始まる。鳴り響いた警告の音に誰も気付くこともなく

そして世界は、巡り




end
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