連載2

□さぁお手を拝借
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「気持ちの悪い笑みだな」

顔を合わせて一瞬で、金髪の見目麗しい男にそう言われた。仮面を被っていたサラサは、一瞬だけ目を見開いて、けれど刹那には仮面の性格らしく、無邪気にきょとんと笑って演技してみせ感情を隠した。内心で男の言葉に毒づいていようとも、微塵も感じさせずにただ無邪気さを装う。
男の、言葉の意味など分からないとでもいうように。
にこにこと笑うサラサと眼光鋭いまま睨むように真っ直ぐ彼女を見つめる男。
一瞬にして室内の気温が下がる。まるで二人の間に猛烈なブリザードが吹き荒れているようだった。
その光景を一歩離れた所で見ていたレノは後にこう語る。互いに腹の探り合いをするこのやりとりは心底おどろおどろしかった、と。

「ソルジャー1stのサラサです。えと、ルーさまにはお目にかかれて光栄です!」
「その気色の悪い笑みを引っ込めろ。……ツォン」
「は、」
「何故護衛がこの女なんだ」
「しかし彼女は神羅カンパニーに二人しかいない1stソルジャーの一人です。実力は確かなものかと」
「はっ。こんな女が護衛とは、親父殿は余程オレを馬鹿にしているとみえる」
「ルーファウス様。私も以前彼女と共に任務を遂行しました。彼女の実力は私が保証します」

ツォンがそう断言するもルーファウスはきりっとした目尻を更に吊り上げ、胡乱気にサラサを見る。

「実力を言っているのではない。腹の中に蝮を飼っていながら、無邪気さを装って人畜無害なフリをしている様が気にくわないと言っているんだ」
「は、は……?」

ほう、とサラサは感心しながら男を見つめた。初対面でサラサの仮面を見抜ける人間など今までいなかったのである。
そもそもどうしてルーファウス・神羅に引き合わせられたかというと、ツォンも述べたように彼の護衛という任務を下されたからである。しかもプレジデント・神羅直々の推挙だった。
辺境の地から呼び戻され、ラザードからそれを聞かされた時思わず仮面の性格をかなぐり捨ててでも社長室に乗り込もうと思ったくらいである。何故なら護衛任務ほど下らなく面白味のない任務はないからである。
護衛というのは要人を守るのが仕事であって狩ることではない。襲われない限り神経を磨り減らすような命のやり取りをすることも無ければ、数をこなして楽しむということも出来ない。
今まで何度か護衛任務についたことがあったが襲われたことはなく、また護衛対象が守るにも値しないようなカスばかりだったため、辟易していたのだ。そこにプレジデント・神羅の息子であるルーファウス・神羅の護衛任務と聞いて、正直バックレようかと真剣に考えたほどだった。
傲慢で貪欲で並外れた自己愛を持つプレジデント・神羅と同様、ルーファウス・神羅もどうせ人の本質すらも見極めることの出来ない父親譲りの性格をしているのだろうと思っていた。その見た目も同様に。
けれどルーファウス・神羅はサラサの予想を良い意味で裏切った。今まで護衛してきた要人とは違っていた。
身に纏う衣服は上等なものと一目でわかるが、豪華過ぎず派手過ぎない白いスーツはシミひとつなく、全体的に手入れの施された髪や爪、指先から身なりには気を使っていることが窺える。欲のかぎりを尽くしでっぷりと太り、持てる財力で身を繕う愚かな要人達とは全く違っていた。
それだけでも好印象なのに男はサラサの仮面を見抜いた。人の本質を見極めることが出来るというのはそれだけで強みのひとつだ。
父親のプレジデント・神羅には備わっていないカリスマに加え、その強みに、サラサはくっ、と小さく笑い声を溢した。
刹那、目の前での言い合いがピタリと収まる。レノとルードを合わせて8つの瞳がサラサに集まった。

「く、あははっ! あんた最高! この私の仮面を初見で見破ったやつなんぞ今までいなかった。ただのボンクラだと思ってたのにどうやら違うらしいな。これは嬉しい誤算だ」
「サラサ……?」
「ツォンですら見抜けなかったのにな」

がらりと雰囲気を変え、口調も声の音程すらも一転させたサラサに戸惑いが広がっていく。けれどルーファウスだけは冷めた目付きでサラサを見据えた。

「それがお前の本性だな」
「さぁどうだろうな。これも沢山ある仮面のうちのひとつかもしれないぞ。……見抜けないのか?」

挑発の色を込めてサラサはルーファウス・神羅を見つめる。先ほどと同様空気が凍り、気温が下がる。後にルードはこう語る。腹の探りあいをする二人は以下略。
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