連載2

□Würden Sie bitte mit mir tanzen?
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「随分と膨れているな、サラサ」

カクテルグラスを片手にカーテン袖に立っていたサラサはアンジールに声をかけられて望洋と彷徨わせていた視線を彼へと向けた。
この華やかな会場に相応しいノリのきいたタキシードを身に纏う彼は何処と無くいつもと違う雰囲気を纏っている。かくいうサラサも漆黒のソルジャー服ではなく深紅のドレスを着用している。ふくよかな胸やキュッと引き締まったくびれのラインを強調する露出の多いドレスを着こなしたサラサは、アンジールとは違って賑やかな喧騒と華やかなパーティ会場から逃げるかのように高嶺の花を決め人を寄せ付けない雰囲気を纏っていた。
サラサはアンジールを一睨みすると持っていたグラスの中身を一気に仰った。並々と注がれた度数の低いピンク色のカクテルはソルジャーにとっては水みたいなものだ。
それがまた面白くない。別に、と返せばアンジールは肩を竦めて持っていた皿を差し出した。

「飲んでばかりいないですこしはたべるといい。酔うぞ」
「ソルジャーは酔わないだろう。お前は律儀だな」
「誰かさんが高嶺の花を決めているからだろう」
「それはそれは悪うございました」

悪態をつきながらも皿に盛られたチキンを摘まんで口の中に放りこんだ。
キラキラとシャンデリアの灯りが輝くこの場所にソルジャーがいるのは単に仕事だからに他ならない。今回のソルジャーの任務はこのパーティーの主催者であるプレジデント・神羅の護衛と不測の事態に備えての警護である。この税を尽くしただたっ広い会場の内外にソルジャーやタークスが紛れこんでいる。彼等が規定である制服ではなく正装しているのはプレジデント・神羅が体裁を気にしてのことである。いわくソルジャーという軍事力を持つ神羅が反乱分子を恐れているという感情を持たせるわけにはいかないらしい。メディアに露出し名前と容姿が知れ渡っているサラサたちは、活躍している彼等の鋭気を養うためという建前のもと会場に潜り込んでいるが実際は任務と、神羅がパーティー参加者に己の力を顕示したいだけである。
それをわかっているからサラサはドレスを渡された時から機嫌が悪い。

「失礼します。お飲み物をプレジデント様からーー」

アンジールとサラサの間に割って入ったギャルソンは一礼して青い液体の入ったグラスをサラサに差し出した。サラサが視線をむけると、プレジデント・神羅と目があった。欲に濡れた彼の傲慢な瞳がこちらにこいと雄弁に物語っている。どうやら彼の周囲にいる人間に紹介するらしい。

「コレクションじゃないっての……

内心で舌打ちしてボソリと呟く。ギャルソンには聞こえなかったがアンジールには聞こえたらしい。端正に整えられた眉をツィときつく寄せた。

「ついていこう」
「いや、いい。どうやら私だけをお望みのようだからな」

神羅の取り巻きに女がいればアンジールも巻き込んでも良かったが生憎と男ばかりだ。
サラサはアンジールに手をふるとグラスを受け取って颯爽と歩きだした。その顔(カンバセ)に対観衆用の表情を取り付けて。




サラサがアンジールに着いてきてもらえば良かったと思ったのは着いて早々のことだった。
プレジデント・神羅に肩を抱かれそれから延々と自己顕示欲の塊が所有物として語り出す。思わず己の肩に触れている手を斬り落としてやろうかという物騒な思考をなけなしの理性で押しとどめる。ついでに拳に力をいれれば持っていたグラスに小さな亀裂が入ってしまいサラサは誤魔化すように中身を飲み干した。

(いけない。彼等がモンスターに見えてきた)

名をつけるなら欲望という名の、何か。
酔わない酒に酔ったふりをしつつただ聞いているだけをいいことにつらつらと取り止めのないことを考える。
たとえばもし、ここにいるのがルーファウスだったのなら。それならばどれだけ楽しかっただろうか。実に面白い余興を見せてくれただろう。彼は『サラサ』という存在の使い方を良く心得ている。そんな彼とならサラサだって協力的になるというものである。
カクテルひとつとはいえ気を抜かず、こんな捻りのないものよりもずっとパンチの利いたものをよこしただろうに。
サラサは『飽き』が嫌いだった。飽きは退屈だし、人を飢えさせる。
何か面白いものはないだろうかと、ぼんやりと見渡したとき、周囲がざわりと華やいだ。特に女性陣がはしゃいでる。
そわそわと浮き足だっているのをみて、サラサはにやりとほくそ笑んだ。
次の犠牲者が来たのである。
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