連載2

□ダークネス・イン・ザ・ワールド
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大きなあくびをかみ殺し、ラザードの居る指令室へと向かう道中だった。廊下を歩くサラサのその先を三人の男が並んで歩いていた。その後ろ姿はジェネシス、アンジール、セフィロスのもので、サラサの同僚である。非常に特徴的な彼らを見間違えるはずもない。
長い銀の髪を靡かせながら歩いている男の背を見て、サラサは殺意が芽生えた。
夢の中でのあの仕打ちを思い出したのである。シャワーを浴びた後は悶々として結局眠れなかったのだ。そのせいで今は眠い。
それもこれもあいつのせいだ。
そう思ったサラサの行動は早かった。気配を消し音もなく彼らの後を追いかけた。
あと一歩で背に届く。彼らにはまだ気付いた様子はみられない。サラサは拳を握って勢いよく突き出した。ーーのだが。

「……一応聞いておこう。なんの真似だ」

当たるはずだったサラサの渾身の突きは華麗に避けられ、かわりに彼の大きな手のひらに受け止められた。
チッと舌打ちして、サラサは拳を引っ込める。

「不意打ちとは卑怯だな」
「黙れジェネシス。おはようアンジール。そしてセフィロス、お前は今すぐ死ぬ」
「いつになく凶暴だな。生理か?」

神経を逆撫でするセリフを吐いたジェネシスには無言で蹴りを入れる。ジェネシスは避けずに当たり、続け様に蹴ったセフィロスには避けられた。

「避けるな」
「馬鹿を言うな」
「いいから当たれ。今すぐ私に八つ当たりをされろ」
「無理な相談だな」
「あたれ」
「断る」
「落ち着け二人とも」

不毛なやり取りを繰り返す二人にそう割って入ったのはやはりアンジールだった。この中で唯一のストッパー役である。ジェネシスは唇に笑みを浮かべながら傍観していた。
アンジールはサラサの拳を軽々と受け止め、セフィロスをサラサの視界に入らないように背に隠す。セフィロスのほうが身長は高いのだから隠れるわけがないのだが、体格の良いアンジールに阻まれると流石に手が出せない。サラサはアンジールを見上げて不満を口にした。

「止めてくれるな、アンジール。セフィロスに一発あてないことには私の気がすまん」
「お前たちが本気でやりあうとビルが崩壊するからやめてくれ。一体何があったんだ?」

不思議なことにどんやくだらないことでもアンジールにだったら話してもいいかなという気持ちがサラサにはある。これがセフィロスやジェネシスだったら絶対にないのだからひとえにアンジールの人柄故だろう。
サラサは唇を尖らせたまま、笑うなよ、と前置きした後、ことの詳細を事細かに語って聞かせた。それが終わると、やはりというかお約束通りジェネシスが鼻で笑った。

「たかが夢だろう」
「だから八つ当たりだと言っただろう。わかったなら大人しく蹴られろ」
「蹴られる理由がない」
「お前に優しさというものはないのか」
「そもそも夢というのは願望の現れというんだろう? それがお前の望みだったんじゃないのか?」
「セフィロス!」

アンジールの嗜める声に、サラサの中でプツンと何かが切れた。

「つまりお前は、私がそういう欲求をお前に持っていると、そう言いたいのか?」
「可能性の話だ」
「安心しろ。それだけは『ぜったい』に無いからな」

絶対、を強調してサラサが言う。鼻で笑うというオプションつきだ。

「そもそもお前だったからこそ不愉快だったから八つ当たりするんだろう。これがアンジールだったら八つ当たりなんかせずに後生大事にとっとくさ」
「ほう……?」

片眉を器用に吊り上げてサラサを責めるように見つめる。その瞳の強さにたじろいでサラサはアンジールの影に隠れた。そこからひょっこりと顔だけだしセフィロスを睨みつける。

「何?」
「……べつに」

ふん、とセフィロスはそっぽを向いた。そのまま踵を返しひとりで歩いて行く。角を曲がりその影が見えなくなった。
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