連載2
□真昼のランデブー
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ダッシュでリビングを駆ける。
落ちたバスタオルなど眼中にない。今は自分の身を守るだけで精一杯だ。
リビングを抜け、廊下に出る。ドアを開けている最中に追いつかれなかったのが不幸中の幸いだ。
ドアを締める前に向こう側からドアが開かれた。
「お、追いかけてくるな!」
「逃げられたら追いかけたくなるのが性分だろう?」
「知るか!」
怒鳴りつけ、目に入った部屋に飛び込んだ。
そこは脱衣所だった。先へと続くドアはバスルームである。気が動転していて、行き止まりを選んでしまった。
それでも鍵のついているバスルームは安全だろうとそのドアに手をかけた瞬間だった。
ぐい、と力強く腕を引かれたのは。
「捕まえた」
低い艶やかな声が降り注ぐ。いかにも楽しげな声音だった。恐る恐る見上げると唇は弧を描き、目は捕まえた獲物をいたぶる獣のように細められている。それはそれは愉快そうだった。
「ひっ!!」
一瞬で鳥肌が立った。逃げようともがくが男の力に適うはずがない。ソルジャーとして底上げされていても、それが同じソルジャーのましてやセフィロスであれば通用するはずがないのだ。
「何故逃げた?」
「……やっ! 耳元でしゃべるなぁっ!」
「フッ……ならあまり俺を煽らないことだな。ーーあぁ、だがその格好では無理か」
「見るな馬鹿! 服を着るから手を離せ!」
「無理な相談だな」
両手を頭上で押さえつけられ、じりじりと押しやられる。背中が壁につき、退路を立たれてしまった。
「ふ、風呂場では服は脱がなきゃなんだぞ!」
「そうか。なら脱がせてくれ」
「だ、脱衣所で一人で脱げ!」
「断る」
「はぁっ!?」
サラサは一刻も早くここから逃げたかった。この男の目の前から逃げる口実が、隙が欲しかった。
セフィロスに付き合わされたら最後、今日の午後の予定が全て水の泡になってしまう。顔を近づけてきたセフィロスにサラサは必死に懇願した。今日が貴重な休日であること、任務の最中から今日という日の為にどれだけの苦痛を耐えたか。
「奇遇だな」
「……え?」
「俺もだ」
「ほんとう!?」
鷹揚に頷くセフィロスに一途の光が見えたかのように思えたが。
「俺もお前を抱きたくて仕方がなかった」
「そっちかーー!」
「それ以外に何がある。……ミッドガルに戻る日を指折り数えたさ。帰ったらお前を飽きるまで抱こうと心に誓ってな」
「誓わなくていい! てか本当に! 夜じゃなきゃ駄目! 冷蔵庫に食材ないし」
「夕食はアンジールの部屋で取る」
「はぁっ!? たかる気か? そんなみっともない真似出来るか!」
「人聞きが悪いことを言うな。あいつが4人で食事しようと誘ってきたんだ。明日から任務でいないらしい。冷蔵庫を掃除するから来い、と。お前にもメールしたと言っていたぞ」
「携帯みてない」
「行くのは決定事項だから構わないだろう。これで夕食の心配はなくなったな」
ククッと喉で笑うセフィロスは意地が悪い。獲物を痛ぶる趣味でも持っているのではなかろうか。
「セフィロス、」
「もう黙れ」
「ん……ッ、ちょっ……!」
首筋を湿った舌で撫でられ、生温かい唇できつく吸われて身体が震える。白い肌に赤く咲いた華にセフィロスは満足気に微笑んだのだった。
END