連載2

□曖昧だったあの日のぼくら
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張り詰めた空気が心地よかった。
緊張と殺気が肌を撫で、脳から分泌されるアドレナリンに自然と身体が高揚していく。
研ぎ澄まされた生死の駆け引きは快感と言っても差し支えない。ならばこの快感を生む戦いはセックスと同じなのだろうか。
唇と唇を合わせるように剣と剣を合わせ、身体を重ねるように斬りかかっては離れるを繰り返す。嬌声は、鍔迫り合いになった時の重なる吐息。

ーー嗚呼、よく似ている。

「何を考えている?」

同じことを考えていたのだろうか。翡翠色の瞳にわずかに色欲の色を浮かべ、艶のある低い声で男が問うてきた。
土埃りを過分に孕んだ風が、互いの長い髪を揺らした。相対する彼の銀髪は目を奪うほどに美しい。
本当に美しい男だった。
ひとつひとつのパーツも、それが配置された場所も何もかも、寸分の狂いもなく美を造りあげている。
見上げてくる男を見下ろし、サラサは張り巡らせた細い糸の上で器用にバランスを保ちながら笑みを浮かべた。

「お前に出会えたことを感謝しよう、神羅の英雄。ソルジャークラス1stセフィロス」

ここまで自分を昂らせてくれた存在など今までいなかった。
求め、望んだ戦いが、ここにあった。

「俺も感謝しよう、神羅の女帝。ソルジャークラス1stサラサ」

思えばこの闘いはどちらも望んでいたのだろう。あの日、出会ったその瞬間から。お互いの潜在意識のどこかで惹かれあっていた。
後にも先にも、ここまで全力を出せる闘いは無いだろう。ならばせめて、これから先悔いが残らぬように、互いの神経をすり減らし互いの生死を賭け、心のままに死闘を始めようではないか。
苛烈に、凄絶に、華麗に、壮絶に。
最初のころはあれほど五月蝿かった歓声が今は無い。
この世界には今、自分とセフィロスしかいない。
だから、今ならば。

「さぁ、ラストダンスといこうか」

セフィロスが左手に正宗を構えた。サラサは両手に二本の大剣を構えーーそして。
互いに地を蹴ったその刹那、闘いの火蓋はきって落とされた。

















「勝者セフィロス!」

その刹那、わぁぁっと観客席から歓声が上がる。セフィロス、セフィロス、と彼を賞賛する声が重なり合い音の波は激しくぶつかって闘技場の地を揺るがした。
審判の判定にサラサは呆然とした。手から二本の愛刀が滑り落ち激しい音を立てた。

「セフィロスの、勝ち?」
「ありえない」

そう呟いたのはセフィロスだった。立ち尽くすサラサを後目に審判に詰め寄った。

「決着はまだついていない。ここで区切るなら勝負は引き分けだろう。何故俺が勝ったことになる」

その声は酷く不機嫌だった。静かな怒りと苛立ちが声から伝わってくる。闘いの余韻か審判が失神しそうなほど殺気が込められていた。
勝負は誰がどう観ても引き分けであるはずだった。剣技、魔法、体力全て同等。力はサラサがやや欠けるがスピードと小回りがセフィロスを上回り上手くカバーし、セフィロスの重みのある一撃を上手くいなしていた。またセフィロスは彼女のスピードを様々な魔法で対応するという高度な技を見せた。
万人が声を無くす圧倒的な試合は賞賛するに値する素晴らしい価値のあるものだった。
けれど試合を途中で止められた二人にとってはそんな感想はどうでもいいことだ。
女帝と英雄。その圧巻たる二人に詰め寄られた審判はたじたじになりながらも、絞り出すように「社長の意向です」と告げた。
その時、超大型スクリーンにプレジデント神羅の巨体が映し出された。

『まずは二人の剣闘を労おう。実に素晴らしい御前試合だった。どちらも「英雄」「女帝」と呼ばれるだけの実力があった。ぜひ盛大な拍手を二人に送って欲しい』

拍手と共に歓声の声が鳴り響く。けれどサラサは納得がいかなかった。
プレジデントは勝敗ね理由を決して述べなかった。試合を褒めるだけ褒めちぎりお得意の演説をし、御前試合の幕は下りた。二人の胸中に納得の出来ない消化不良のしこりを残したまま。












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