連載2

□曖昧だったあの日のぼくら
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闘いの中、確かな高揚感があった。
生まれてこのかた、精神をすり減らす闘いをしたのは今日が始めてだとセフィロスは思った。ジェネシスやアンジールを相手にしている時は確かに楽しかったけれどいつだって余裕があった。闘いの最中に本気を出せないなと、いつもどこかでセーブしている自分がいる。彼らが弱いのではない。自分がただ規格外に強すぎるだけなのだ。
けれど今日の御前試合はその全てを取り払ってしまった。
息をつく暇もない研ぎ澄まされた剣技の数々。襲い来る高度な魔法の質と量。その全てが自身と同等かそれ以上だった。
本気を出さねば殺される。
考え事すら許されない。初めて全てをさらけ出しても良いーーもしかしたら自分を殺すことが出来る存在に会うことが出来た。
それは純粋な喜びだった。細胞が震えるほどに歓喜した。
切望していたのだ。ずっと。自分と対等に渡り合える存在を。
金、権力、名声。様々なものをセフィロスは神羅から与えられてきた。けれどセフィロスが本当に欲しかったものだけは神羅は与えてくれなかった。否、神羅だけではない。この世界はどんな存在でさえ自分と対等に渡り合える存在を与えてくれはしなかった。
それが今日、覆された。
本当に欲しいものを与えられたのは初めてだった。だからセフィロスは戸惑っている。本当にそれを手にして良いのかを。
熱いため息をついてセフィロスは蛇口を捻り水を止めた。
闘いで火照った身体と神経を落ち着かせるためにシャワーを浴びていたのに自然と思い出されるのが試合のことばかりで一向に落ち着かない。それどころか消化不良の昂りがどこかに捌け口を求めている。
そんな時セフィロスは気まぐれに女を抱いていた。英雄と言う名と持って生まれた美貌故に女に困ったことは一度もない。一晩限りの相手にそうやって昂りを発散させてきたのだが生憎と今日はそんな気分には慣れなかった。






セフィロスが1st専用のシャワールームを出るとサラサの姿が見えた。
彼女もシャワーを浴びたのだろうか。長い髪がしっとりと濡れ、上気した頬や白い肌が赤く色づいていて実に艶やかだった。白いワイシャツと黒のスラックスという質素な姿であるのに、溢れ出す色気のなんと色欲を誘うことか。
あまりにじっと見つめすぎたせいか、視線に敏感なサラサが気づいた。ばちりと目が合うと大きな瞳をさらに大きく見開かせてそれから視線をうろうろと怪しげに宙に彷徨わせた。

「……なんだ?」
「別に……」

肩にかけていたタオルでサラサは口元を覆った。もごもごと何やら呟いていたがソルジャーの聴覚を持ってしても聞き取れなかった。

「シャワーを浴びたのか?」
「ん。ラザードのシャワールーム借りたの」

ラザードはソルジャー部門の統括だ。統括という地位にいるだけあって専用の仮眠室もあり、シャワールームもある。サラサが彼のシャワールームを使うのはサラサが女性であるという点を配慮してだ。女帝と呼ばれいくら強くても女は女。飢えた獣の中に餌と成り得るサラサを放り出す真似は絶対にしないとのラザードの心ばかりの気遣いである。

「そうか……」
「ああ……」

いつもは続く会話が何故か続かなかった。セフィロスはサラサを見つめ、サラサはセフィロスから逃れるように視線を逸らす。

「……いかないのか?」
「いく、」

とてとてと歩き出したサラサにセフィロスも並んだ。

「……今日の勝負、俺は引き分けだと思っている」
「……負けは負けだ。諦めるさ」
「試合直後にあんなに暴れていた奴の言葉とは思えないな」
「……だからこそ、だ」

サラサら負けを認めなかった。勝ちとも認めなかったけれど。引き分けか、決着がつくまで戦わせろと社長に食ってかかり散々暴れまわった。それをアンジールとジェネシスが取り押さえたのである。

「そもそもお前だって私と一緒に暴れたじゃないか」
「同意見だったからな。決着がつくのなら最後まで闘いたかった」
「私だって……。けどもう無理だろう。大義名分は与えられない」
「何故?」

セフィロスの問いにサラサはきょろきょろと辺りを伺って周囲に人の気配がないのを確かめると若干声を潜めて言った。

「御前試合……周囲に私たちの実力を見せるためだとか表向きは誂えているが実際は私よりもお前のほうが格上だと大衆に認識させるのが今回のプレジデントの目的だった」
「ほう?」
「プレジデントは男尊女卑の気がある。女は男を引き立たせるための道具だとしか思ってないからな。だから女帝と呼ばれお前と肩を並べる私が目障りだった。たとえ神羅に貢献していても、だ。それに私はルーファウスと仲が良い。あいつは自称私の後見人だからな。あいつが一筋縄でいくような奴ではないことはお前も知っているな?」
「ああ」
「プレジデントはそれも気に食わない。いつ息子に社長の座を乗っ取られるかーー戦線恐々としている。身内には甘いが出る杭は打ちたいというのが奴の心境だ。最近はルーを本社に近づけないよう動いていたしな。それで私に目をつけた。女帝と呼ばれルーファウスを後見に持つ私と、英雄と呼ばれプレジデントが擁立するお前。ここまで言えばお前でもわかるだろう?」
「大衆の前で俺に完膚なきまでに叩きのめされ、最強は俺だけであるとしらしめたかったわけか」
「女よりも男が強い。息子よりも父親のほうが勝っている。私を擁立するルーファウスの面目も潰して起きたかった。ついでに上層部でも私を支持する人間に偶像崇拝もいいとこであると教えつけるためにな」
「だから同じ1stでもジェネシスとアンジールは選ばれなかった、か」
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