連載2

□出会ってはいけない二人
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ーー何か、変だ。

暗雲を背に聳え立つ世界屈指の大企業、神羅ビルを見上げてサラサは不意に身体を襲った異変に眉を寄せた。
視線を落とすと、指先が僅かに震えていた。ともすれば気づかぬほどに僅かだったが小さな痛みも感じられる。戦場にいるわけでもないのに皮膚がざわめいた。悪寒が走るのにも似ていて奇妙な緊張が生まれる。
神羅ビルのお膝元で暴動を起こす馬鹿がいるものかとサラサは敵を探る。鈍い紫色を基調とした軍服を着用した一般兵の姿がありわスーツを着用した神羅社員が時間に追われて忙しなく行き交っている。それは至って平時の平穏な光景そのもので、敵の存在は感じられなかった。

「変なの……」

手を握ったり開いたりを繰り返すと次第に震えはなくなった。
肌を撫でる異変も消え、釈然としない思いだけが残る。不満を口にしながらサラサはビルの改札をくぐり抜けエレベーターに乗り込んだ。
ボタンを押し、壁に背を預けて大きく息を吐いた。
あれは何かをしらせる警報に似ていた。ひとはそれを第六感と呼んでいるのだが、サラサはその心の閃きに重きを置いている。戦場ではその心の閃きが時に自分を助けてくれる。仲良くしておいて損はない。仲良くすればするほどそれは裏切らない。サラサがその閃きを裏切らない限りは。

「何か、変な気分だ」

エレベーターが上昇すると、得体の知れない不快感が降って湧いた。心に直接のし掛かってくるような憂鬱さは不快でしかない。一度エレベーターから降りよう。そう思い、適当な階のボタンを押そうとした時だった。
神経を直接触られているかのようなざわめきが肌を撫でた。それも先ほどよりもずっと強く。
指先が震えた。まるで子どもがプレゼントを手にした時のような、期待と焦燥が混じった感覚だった。気ばかりが急いでそわそわしている。そうやってざわめく心に自制を試みるがそれを邪魔するように心臓がうるさく騒ぎ出した。
降りなければーー降りてはならない。
行かなければーー行ってはならない。
矛盾した考えがぐるぐると駆け巡りサラサは吐気を覚えて口元に手をあてた。
チン、と音を立ててエレベーターが到着を告げる。よろよろと覚束ない足取りで降りてサラサはその場に蹲った。何度か深呼吸をして体を落ち着かせる。
これから向かうのはラザードのいるソルジャー司令室だ。間違っても期待するようなものなどない。
それとも緊張しているのだろうか。今まで神羅ビルから遠い辺境の地で魔晄炉の調査や突如凶暴化したモンスターなどの討伐に明け暮れていたが先日神羅ビルに在中するようにとありがたくもない辞令が下ったのである。
しかし何度も来たことのある神羅ビルだ。今更緊張などするはずもない。
我が事ながら分からずに眉を寄せ、吐気も収まり立ち上がったサラサは緩く首を振ってイライラとした足取りで指令室へと向かった。こうなったら速くここから出るべきだ。そのためにも一刻も速く任務を貰おう。そう意気込んで司令室へと入った。

「ラザード! 次の任務をーー」

早く。そう続くはずのその言葉がサラサから紡がれることはなかった。
視界に入ったのは銀。
さらさらとすべる銀色の髪に目を奪われた。

ーーヨウヤクアエタ

ゆっくりと男が振り返った。アルビノのように白い肌。精悍な顔立ちに鋭い双眸。すっと通った鼻筋に形のよい唇。どのパーツも完璧で、その全てをもって超越的な美貌を作りあげていた。

ーーイトシイいとしい愛しい……


眼差しは凛々しくその双眸に嵌る翡翠色の瞳と目があった時、音を立てて心臓が跳ねた。ざわめきが一層ひどくなる。耳の奥に蔓延るノイズにキインと高い耳鳴りが重なる。
身体が、心が、細胞のひとつひとつが沸き立つ歓喜に震えている。ともすれば叫びだしてしまいそうだった。
目が、離せない。

ーーイトシイワタシノカワイイーー

切なさと、悲しみと、それを上回る愛しさ。数歩歩けば届く距離にいる喜び。
叫ぶ。叫んでいる。内側からこみ上げてくる衝動に駆られるまま抱きしめたい。××はここだと抱きしめて、愛を紡ぎたい。

「ーーサラサ?」

その瞬間、サラサは現実に引き戻された。頭の中の白い靄が一瞬にして晴れていく。ノイズも耳鳴りも止み、震えは止まり、先ほどまで埋め尽くしていた感情も消えていった。
ふらりと視界が揺れ崩れ落ちそうになる体をサラサは意地で支えた。気合いと根性で床を踏みしめる。

ーー私は何を考えていた?

あれは間違っても自分の感情ではない。
どこから生まれてきたのかもわからない。誰かに押し付けられた感情だ。間違っても初対面の人間に抱くものではない。
ーーましてやひとつになりたいなどと。

「馬鹿馬鹿しい……」
「サラサ?」

ボソリと小さく呟かれた言葉は幸いにもラザードには届かなかった。いや、とかぶりをふってサラサは極力男を視界にいれないようラザードに向き直った。横からしつこく視線を感じたが気付かないふりをした。

「おはよう。今までの疲れが一気に出たかな?」
「違う。そんなんじゃないから気にするな」
「そうかい? ならいいんだけど。さて、先ほど長いこと見つめあっていたようだけどあらためて紹介しよう。彼が、君が兼ねてより会いたがっていたソルジャークラス1stセフィロスだ。英雄セフィロスと言ったほうが馴染み深いかな」
「こいつが……?」
「ああ。そしてセフィロス。彼女がサラサだ。君も噂くらいは聞いていただろう? 君の次にクラス1stになったソルジャーだ。巷では女帝なんて呼ばれ方をしているみたいだけどね」
「……本当にいたのか」
「もちろん。サラサはいつも辺境地でのSSランクの任務ばかり与えていたから会う機会も無かったけれど本日付でミッドガルに腰を落ち着けることになったから一緒の任務につくこともあると思う。同じ1stクラス同士仲良くしてくれ」
「……善処しよう」
「サラサもね」
「……頭にはいれておく」

そう言って、サラサは横目で男を見上げた。男もちょうど見下ろしたところだったらしくばちりと視線が交差し、サラサはぷいっとそっぽを向いた。

「美男美女。まるで絵に描いたようような光景だね。こうやってみると圧巻だよ」

苦笑交じりに言うラザードにサラサは何とも言えない表情を浮かべた。
この男につりあう美女など存在するわけがない。彼のほうがそこらの女よりよっぽど美しい顔立ちをしているのだから。それこそ絶世の美女か傾国の美女並でなければ釣り合わないだろう。

「世辞はいらない」
「お世辞なんかじゃないよ。これは本心」
「御託はいい。今日の任務は?」
「今日は待機。セフィロス、今日アンジールとジェネシスが帰ってくるんだ。サラサに彼等を紹介しておいてくれ」
「オレが?」
「君も今日は待機だし、二人で親交でも深めておいで」
「「余計なお世話だ」」

言葉が重なった。思わず男を見上げ再び視線が重なってサラサは慌てて視線を逸らした。

「波長もぴったりのようだね。じゃあ退室」

にこやかな笑顔で退室を促されサラサは男と共に退室を余儀無くされた。
銀色の髪を靡かせ前を歩く男の後ろ姿にふとルーファウスの言葉を思い出してサラサは苦虫を噛み潰したのだった。

ーーあいつ、後でしめる。

騙されたままでいるつもりはなかった。







end



クライシスコア突入の2年くらい前の予定。
ちなみにサラサはアンジールとジェネシスの先輩にあたる。セフィロスと一緒の初期1st組。
辺境の地にいるのはデータを取るためと社長の意向。女のソルジャーはいらん!!だそうで。けれどある時女のソルジャーかっこいいんじゃない?もしかしたら女性で入隊増えるかも?神羅もイメージアップするかも?という発想に至って急遽招集そして辞令。
サラサがセフィロスに会ってみたかったのは巷で騒がれている男がどんなやつなのか見てみたかったから。辺境地にいるから情報は辛うじて入ってきても写真は出回らないのよ。
 

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