連載2

□堕とされた歌姫が唄う破滅のうた
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少女は失った。
すべてを奪われた。
恋人も家族も親友もーーすべて、すべて。
少女も奪った。
敵を、敵の仲間を、家族を。
戦争だったから。
勝たなければ生きていけなかったから。
共存など出来なかったから。
思想が違う。望みが違う。正義が違う。悪が違う。想いが違う。志が違う。
全部が違ったから。
だから戦った。戦って勝たなければ失うとわかっていたから。永きに渡る戦いに勝たなければ幸せにはなれないと知っていたから。
その果てに少女は、いる。








◆◇◆◇◆









「サラサちゃん、村にいこうか」

その一言で、サラサは家から連れ出された。
老婆が持っていたバスケットを手に持ってサラサは彼女の後ろを歩く。中にはここ数日で作った色々な種類のジャムが所狭しと並んでいた。苺、ブルーベリー、イチジク、マーマレード。すべてあの庭で育った果実だ。老婆はサラサの唄を聞きながらせっせと収穫に勤しんでいた。その時のものだった。
何をするでもなく怠惰に自堕落に生きているサラサの一日の行動の主導権は老婆が持っている。基本は好きなようにさせているが時折ふと思いついたように村に出かけたり森の散策に連れ出されたりする。
村に行く時はこうしてあの箱庭で収穫した野菜や果物をもって物々交換にいくのだという。ジャムなんかは買い取ってくれるらしい。森に散策に行く時は必ず収穫用の籠を背負い、見つけた薬草や木の実なんかを拾って歩く。川で魚釣もしたーーサラサは見ていただけだったが。
老婆は見かけよりもずっとフットワークが軽かった。一人で生きていくにはそれくらいでなければならないのだろう。

ーーひとり。

その一言が深く心に突き刺さる。
サラサを絶望の底へと突き落とす単語だ。
ひとりは苦しく辛く哀しい。
手をとって笑いあうことも喜びを分かち合うことも出来なければ悲しみを半分にすることも出来ない。寂しさを紛らわすことも人を愛することも出来はしない。
サラサはこの星でひとりだった。
自身の生まれ故郷もなく、自身を知る人間もいない。恋人との思い出の地もなければ親友と出会った街もない。
ひとりはいやだ。ひとりは寂しい。ひとりは哀しい。ひとりは苦しい。ひとりは辛い。ひとりはーーこわい。
教団の己に与えられた自室でひとりに怯え膝を抱えてじっと夜明けを待っていたあの虚しさがじわじわと侵食してくる。

「てぃき……」

涙とともにその名は紡がれる。けれど答えてくれる人間もはこの星に存在しなかった。この星どころかもうどこを探してもサラサが愛した男は見つけれないのだった。
彼女の目の前で彼は灰となって散ったのだから。

『ーーーーー』

サラサは唄を歌う。
哀しい歌。美しくも暗い旋律。
唄えば心が慰められた。唄い終わった時の虚無感は言葉にし難いものがあったけれど唄っている時だけはそれ以上の辛さを忘れることが出来たから。





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あとがき。
もしサラサが神羅の研究室に堕ちていなかったら。
捏造過多。
思いついて筆が止まらないので勢いで書いてみました。
序盤は暗いです。鬱です。生に執着なんかしてないのでいつでも死にたいむしろ殺してくれ状態な夢主。
本編君忘とは天と地ほどに違いますね。この夢主にはちゃんと記憶に対する感情が残ってます。なんでかというとネタバレになりますが。
そのせいでACのクラウド並に鬱々と過去を引きずってますよー。ちなみに時間軸はCC前で反神羅組織が活発化してるあたりです。
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