連載2

□堕とされた歌姫が唄う破滅のうた
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彼女は唄う。
心の赴くままに。
己の願うままに。
悲しみの歌を。
追悼の歌を。

破滅の、歌を。








◇◆◇◆◇









男は同胞に渡された書類に目を通しその形の整った眉を僅かに寄せた。

「どういうことだ?」

報告書である紙面にはここ連日の反神羅組織が何者かによって壊滅し、その詳細が所狭しと並べられている。だがしかし、肝心の誰によって壊滅させられたかが書かれていなかった。
緑色の瞳を向けた相手は「わからん」と苦い表情を浮かべる。
神羅に所属する彼らにとって各地に潜む反神羅組織の壊滅は朗報である。
何故なら専ら反神羅組織の対抗馬として駆り出されるソルジャー部門は常に人員不足だからである。たとえヘリがあったとしても各地に大多数の人数を派遣する余裕はない。治安維持部門と協力する場合もあるが、相手が魔法や召喚を使う場合には彼らだけでは分が悪い。故に必ずソルジャーが同行する。だがソルジャーのミッションには反神羅組織の相手だけではなくウータイの残党狩りだとか、凶暴化したモンスターの討伐などもある。その全てにソルジャーを割り振るなど無理があるのだ。
だがしかし、朗報は同時に凶報の可能性もあった。それは反神羅組織を壊滅させるだけの力を持った第三勢力の台頭である。彼らが神羅の味方なのか、それとももっと別の思惑があるのかーー当分はそちらにも気を置かなければならないだろう。
すでにタークスは第三勢力の存在を危惧し動いているという。実際に調査も行い、場合によってはスカウトするのだろう。もしくは裏処理に回すか。

「セフィロス。お前はどう思う?」
「どう、とは?」
「プレジデントは純粋に仲間割れだと喜んでいるらしいが」
「ふん。これが仲間割れによるものなわけないだろう。相変わらずおめでたい奴だ」

調査した資料によると、反神羅組織の隠れ家はみな、悉く、そう簡単にはたち直せないほどに壊されていたと書いてある。仲間割れであるならばここまですることはないはずだ。

「……怨恨」
「セフィロスもそう思うか?」

ぽつりとセフィロスが零した言葉にアンジールが食いついた。

「も、ということはお前もそう思ったのか?」
「ああ。実際この目で見てきたがすごいものだったぞ」

たまたま組織の潜伏先とアンジールの遠征地が近かったため、残党がいないか確かめるべく先に向かったタークスの後を追うようにその場に行ったのだが、みるも無惨な姿になっていた。
建物は廃墟と化し、切り捨てられた死体がいたるところに転がっていたのだ。埋葬されることもなく。ただ不可思議だったのは、その全ての死体の在り方だった。比較的新しいものもあれば腐敗が進んでいるのもあり、あるものは白骨化していた。だがそのすべての死体が着ていた服についていた血は真新しいもので服自体もそう劣化がみられなかった。暗殺者が腐乱死体に新しい服を着せる趣味がなければ、その亡骸たちはすべて同時期に殺されたものとみて間違いないだろう。疑問は残るが。
そして建物も劣化とそうでない所の差が激しかった。むき出しになった鉄筋コンクリートに焼け焦げた天井や床。そして何故か建物の中に咲いている草花たち。前者に関しては誰かが魔法を使ったからといえば説明がつくが後者に関しては魔法でも説明がつかない。コンクリートの床から(その下に土があるわけでもないのに)生えた草花は最初からそこにあったとでも言いたげに存在していた。タークスの連中が摘み取って検査に回すといっていたが一体どんな結果が出ていることやら。

「そういえば草花で思い出したんだが……」
「なんだ?」
「死体からな、花が生えていたんだ」

アンジールがそれを目にした時はすでに枯れていたけれど。というよりアンジールが目にしたからこそ花が急速に枯れたというべきか。タークスに知らせる前にその証拠となる花自体が消えてしまって報告書にも書けず目の錯覚かと思い忘れていたのだ。

「ほう。それは興味深いな」
「だろう? もしかしたら新手の魔法かもしれん」

魔法を使うにあたって必要なのはマテリアだ。そのマテリアには古代種の知識が蓄積されているとされ、詳しくはわかっていない。世界にどれだけのマテリアが存在しているかも解っておらず、新しいマテリアがあっても不思議ではないのだ。

「マテリアを使える人間か……惜しいな」

一般にもマテリアは出回っている。おもに人工物だが。それを介せば一般人でも魔法を使えるのだが実際に使える人間はそう多くはない。攻撃用の魔法となると使える人間は限られてくる。マテリアを手にしたからといって、はい使えますなんて簡単にはいかないのだ。適性があり、基礎を学びそうしてようやく使えるようになる。

「第三勢力と限られたわけじゃあないがもしかしたらこちらのほうが厄介かもしれないな」
「ああ。だが当分は反神羅組織にソルジャーを割かなくてもすみそうだ。少しだけ楽になるだろう」
「そのうち神羅に牙が向かなければいいが……」

ぽつりと落とされたアンジールの杞憂にセフィロスは何も答えなかった。かわりに破壊しつくされた建物が映る写真に目を落とす。
どれだけの恨みがあるのか。
なぜ反神羅組織に恨みがあるのか。
もしかしたら、と何かしらの予感をセフィロスは静かに感じていた。






 
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