連載2

□堕とされた歌姫が唄う破滅のうた
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少女は見上げた。
ミッドガルの中心に聳え立つ巨大な建物を。
それは悪の要塞。総本山。反神羅組織を生む原因となった場所。始まりの場所。そしてこれから少女が終わらせる場所だ。
神羅カンパニー本社ビル。
その建物はかつて自身が所属していた黒の教団を彷彿させる。あの建物も、正義を掲げる輩の総本山にしては悪の要塞のような観てくれをしていた。常に立ち込めている暗雲がそうさせていたのだろうか。建物の造りが似ているのもあって少女の瞳に憎悪の光が宿る。

少女は己の手首に触れた。そこに嵌められた形見となった紫色の石で出来たブレスレットに。

「ここで最後」

歪な形のそれを白い指先でゆっくりと撫でる。石にこびりついて固まった血を確かめるかのように。

少女は目を閉じ大きく息を吸うと戦う意思を瞳に宿して神羅ビルの入口へと向かったのだった。










◆◇◆◇◆









あのね、死んで。
そう言って少女はその身に似合わぬ巨大な剣を振るう。それだけで何人もの兵士が吹き飛んだ。
剣風とともに弾ける斬撃。あるいは衝撃波は一介の兵士の命を悉く奪い去った。
少女は建物を壊しながら頂上を目指す。少女の目的はこの神羅カンパニーのビルを再建出来ることなく粉々に壊してしまうことだ。今まで壊してきた反神羅組織の潜伏先のように。
再建には金がかかるものだ。またこんな街中で壊れたら周囲への賠償も莫大なものになるだろう。
サラサの目的はそれだ。
まず建物を壊す。完膚なきまでまでに粉々に。壊すことで彼らの拠り所をなくすためだ。そして神羅が溜め込んでいる金を散財させる。身包みをはいでしまうぐらいに。さらに社長を亡き者に出来れば上々だ。最初から社長を狙ってもよかったのだがサラサは社長がだれかわからなかったため(調べるつもりもなかった)手当たり次第に切り捨てる。その中に社長がいればいいなという感覚だ。どうせ目についた範囲の人間は殺してあるくのだから問題ない。
真っ先に壊したエレベーターは使えない。だがその内部を駆け上ってサラサは一つ上の階に足を踏み入れる。建物の内部を壊しながら、向かってくる兵士を倒しながら階段を登り次の階へ。そうやって移動を繰り返す。
神羅ビルは単調な造りのビルだったため実に楽だった。間違ってもの黒の教団みたいに複雑奇怪な造りをしていないから道に迷うこともない。エレベーターが二つに非常用の階段が一つ。地震や襲撃があった時どうするんだろうとも思うが前者はもしかしたらこの星にはないのかもしれないし、後者は神羅が敵の侵入など気にしていないのかもしれなかった。もっとも敵の総本山に単身攻め込もうと考える人間なんてあとにも先にもサラサぐらいしかいないだろうけれど。
何回まで進んだだろうか。途中倒すのも億劫になって斬撃だけで吹き飛ばすというズルを使って駆け上がっているわけだけれど。まあ中の敵を倒せていなくても階下へと降りる階段はサラサが壊して移動しているわけだから、彼らは閉じ込められて出られないわけだけれど(エレベーターから飛び降りたらなんとかなるかもしれない。命の保証は高くなるにつれて無くなるが)
階段の標記に34とあった。
あちらこちらで建物の崩れる鈍い音がする。悲鳴も。電気はとっくに使えなくなっていた。むき出しの鉄骨に手を這わせ能力を使う。
手のひらから溢れる光。それと同時に鉄骨に草花が生える。

「行って」

サラサが手を離すと植物たちは勝手に生い茂り蔦を伸ばしみるみるうちに鉄骨をただの錆屑へと変えた。やがて草花は建物の内部を侵食し老朽化させるだろう。
やがては腐敗し崩れていく。
植物の力は偉大である。とくにサラサの能力で生み出された草花は圧倒的な早さで侵食を進める。今まで破壊してきた反神羅組織の建物もものの30分で数十年先の未来へと導いた。神羅ビルは建物が大きいから時間がかかるだろうがその分根を這わせやすい。根がつけばあとは手を出さなくても勝手に壊れていくだろう。
たとえサラサが死んだとしても。
小さく息を吐いたサラサは、けれどふと感じた殺気に地を蹴った。直後サラサが先ほどまで立っていた場所に亀裂が走った。
空中でくるくると回転して着地する。大剣の柄を握りしめて亀裂を作った張本人を睨んだ。
銀髪の見目麗しい男だった。こつこつとブーツの音を響かせ階段を降りてくる。その手には長い日本刀が握られていた。漆黒のコートに隠された肉体からは並々ならぬ闘気が滲み出ている。今までの兵士たちとは格が違うのだろう。そう思わせるほど研ぎ澄まされた殺気が迸っていた。

「よく避けたな」

その声にサラサは僅かに目を見開いた。あの人とどこか似ているその声が少しだけサラサの思考をかき乱す。
これで姿形が似ていたら完全に取り乱していただろう。

「お前が襲撃者だな?」
「だったらなに?」
「驚いたな。お前一人か?」
「そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」

緑色の瞳が楽しげに揺らめいている。戦闘狂か、とサラサは自分のことを棚にあげて冷えた眼差しで男を見つめた。

「ひとつ聞く。ここ最近反神羅組織を片っ端から潰している連中がいるらしくてな。それはお前か?」
「だったらなに?」
「何故神羅を襲撃した?」
「神羅が反神羅組織を生んだから」
「ほう?」
「反神羅組織を生んだ責任を神羅は取るべき。だから反神羅組織を破壊して、神羅も破壊する」
「神羅も恨んでいる、と?」
「恨んではいない。ただ神羅が有る限り反神羅組織が生まれるなら神羅を壊してしまおうと思っただけ。二つがいがみ合っているなら二つとも消してしまえばいい。痛み分け。責任の取り方」
「何に対する責任だ?」
「……関係ない人間を争いに巻き込んだ、責任」
「そうか」
「社長が逃げる時間、稼いでる?」
「そういうわけではない。ただ神羅を襲撃した人間がここまでこれたことはないからな。純粋に興味があっただけだ。その原動力にな」
「そう。私の目的、神羅を壊す。社長は別に生きても死んでも関係ない」
「逃がせばまた神羅を立ち上げるぞ?」
「その資金が彼に残るのなら。ここまでビルが破壊されて神羅の名が落ちなければ再建出来る。だけどビルは跡形もなく消す予定だから、彼の信用は、ガタ落ち。でも社長、死んだ方がいいかな?」
「さあな」
「……自分の社長なのに、他人事?」
「神羅がどうなろうと構わん。俺はただ命令に従うだけだ」
「命令する人がいなくなったら?」
「その時になったら考えるさ」
「……今のあなたへの命令は?」
「襲撃者を殺すこと」
「今社長が死んだら命令は?」
「無効になるな」
「ふぅん」
「なんだ? 今更命が惜しくなったのか?」
「別に命は惜しくない。社長も結構どうでもいいや」
「そうか。なら戦うか」
「ねえ」
「なんだ?」
「私が時間稼ぎしてるって思わないの?」
「何?」

その瞬間、大地が軋む、音がした。








 
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