連載2

□堕とされた歌姫が唄う破滅のうた
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「私が時間稼ぎしてるって思わないの?」
「何?」

神羅に侵入した少女に仲間はいないはずだった。それは実際に映像をみたセフィロスが断言できる。それとも別働隊がいるのだろうか。だがしかし少女は侵入直後真っ先に退路を断った。つまりはエントランスごと入口を破壊したのである。そこからどうやって別働隊が入れるというのか。省みれば少女の言動は矛盾する。
訝しげに少女をみれば、少女は笑った。
艶やかに華やかに。
花も恥らうほど美しく悪魔さえも魅了する笑みを浮かべて笑った。
その瞬間、床が軋みをあげて揺れ出した。大地が唸っているのではと思えるほど激しい音がする。その中で少女は微動だにしなかった。
セフィロスをみつめーーそして。
その姿が一瞬にして消える。
床から勢いよく突き出してきた太い樹の枝によって視界が遮られたのだ。

「……チッ!」

時間稼ぎとはこれのことだったのだ。だから少女はセフィロスの疑問にも答えたし少女自身も疑問を問うてきた。
そして言葉遊び。
少女の狙いはやはり最初からプレジデントだったのだ。
セフィロスに向かって勢いよく伸びてきた枝の一部を正宗で切り落とす。ついでファイガを唱えあたりを一掃する。だが床から生えてきた巨大な幹は燃やすことはできなかった。
セフィロスは躊躇うことなく急成長を続ける大樹に飛び乗り少女のあとを追いかけたのだった。









◇◆◇◆◇









天井に向かって大剣を媒介に雷撃を放つ。それは真空を切り裂き天井を通り越して屋上へと直撃した。天井から降り注ぐ瓦礫を避けながら天井だけでなく部屋の至る所に向かって来撃破を飛ばす。屋上に近いところが崩壊すれば必然的に屋上も崩壊する。
その考えは功を奏し、ガラス張りの窓からヘリコプターが地上へと落下していくのが見えた。プロペラが稼働中だったが雨のように降り注ぐ瓦礫のなかでは使いものにならないだろう。

「あれに社長、乗ってるかな」

乗ってたらいいな。
軽い口調でサラサは呟く。
先ほど出会った男は恐らく相当な実力の持ち主である。彼を相手にしていたら(勿論負けるつもりはないけれど)長々と戦う羽目になっていただろう。長期戦は自分の望まぬものだ。サラサの目的は神羅ビルの破壊だ。それは変わらない。完膚なきまでに徹底的に破壊する。そのためにここへやってきたのだ。あの面倒臭そうな男の相手をしにきたわけではない。
銀の男と対峙した瞬間からサラサは草花の成長速度を急激に早めた。床についていた足を介して。その下を根が張っていたから。ついでにただの草花ではなく巨大な大樹に成長するよう作用も変えた。その際自身の力を極限まで与え続けた。その結果、大樹は爆発的に成長し、サラサは男の攻撃範囲から消えることが出来たのである。

「少し、吸わせすぎたか……」

くらりと眩暈を感じてサラサは大樹の幹に背を預けた。密着した背中からとくんとくんと大樹の生命を感じる。力強く、ちょっとやそっとでは折れない強かさを持っていた。

「大きな樹におなり」

そうして神羅ビルを破壊しつくせ。
そう言ってサラサはうっそりと笑う。このビルを破壊し、全てが終わる。
反神羅組織は目につく限り全て破壊した。組織の人間は全て抹殺したと言ってもいい。あとは神羅だけだ。神羅で全てが終わる。終わったあとどうするかは考えてはいない。サラサにはいく場所がないから。
崩壊していく神羅ビルから瓦礫が落ち人も落ちる。無感動にそれらを眺めていたサラサだったが不意に殺気を感じて大樹から飛び降りた。
途端背後で爆発が起こる。
爆風を背に床に降り立ち、サラサは斬りつけられた刃を番いの大剣で受け止めた。ぎりぎりとつばぜり合いになる。力で押し負けると察したサラサは男の剣をいなして飛び退いた。
すぐさま飛んできたのは炎の塊だった。それを難なく避けてサラサは男に斬りかかる。
再び鍔迫り合いになったところで剣に雷を纏い放電した。今度は男の方が飛び退いて、サラサは先ほどの炎のお返しとばかりに雷撃を飛ばす。空気を切り裂き宙を舞うそれは、だけれど男に当たること無く壁を粉砕した。

「ほう、マテリアが使えるのか。変わった使い方だが面白い」

サラサは何も言わなかった。肯定も否定も。
サラサはマテリアを使えない。というよりは使ったことがない。
この星に魔法を使う道具があるというのは知っていた。それがマテリアだということも。反神羅組織を壊滅させた際何人かの人間が使っていたのも目にしている。キラキラと星を圧縮したかのような丸い球体。様々な色を持つそれを使いたいと思ったことは一度としてなかった。何故ならそんなものに頼らなくても自分にはそれに類似したものが使えるからだ。姫としての能力はもとより、ノアの子供達の能力も。壁は通過できるし想像を現実に出来る。 雷を生むことだって可能だ。違う生き物に変身も出来る。
万能にして最強。
そうであるはずだった。戦争に負ける前までは。
最強であったら戦争に負けなかった。恋人を失うことはなかった。友を、家族を失うことも、世界から堕とされることもなかった。ひとり、悲しみに取り残されることも、なかったのだ。
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