連載2

□最果てへ
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なんとか引き返して厨房に。そして蹲る。

「やばい。鼻血でるかも」
「リズ! しっかりしろ!」
「パンとビールおかわりだって」
「ああ……平気か」
「もち。また行って堪能してくる。死んだら骨は拾ってちょうだい」
「リズ!?」

籠とジョッキを手にテーブルへいくと、なにやら真剣な表情で魚の香草焼きを睨んでいる女帝がいた。

「ねぇ店員さん。この香草焼きに使われてるのってシソ?」
「え? あ。はい。そうです」
「あとタイムだよね?」
「はい」
「こんなところにシソとタイムがあるなんて」
「なんだ? そのシソとタイムとは」
「この香草焼きに使われているハーブの名前」
「珍しいのか?」
「どっちもミッドガルではなかなか手に入らないし、あってもお高い」
「お前の給料で手に入らないものなどあるまいに」

クツクツと英雄が笑う。とても綺麗な笑みだった。二人ともとても睫毛が長いし髪もさらさらしている。肌も白いし、陶器のようにすべすべしてそうだ。見た感じでわかる。リズの心拍数も上がりっぱなしだ。

「ああああああの!」
「うん?」
「じょてーーろ、ローズさんはお料理お好きなんですか?」
「うん、まぁ人並みくらいには」
「こいつは美食家だぞ」
「セスは食べれればなんでもいいもんね」
「できれば毎日お前の料理が食べたい」
「はいはい」

英雄のプロポーズをさらりと交わして(言われなれているのだろうか)女帝はリズを見上げ、美味しいよ、と言った。笑顔で。
くらりときた。その笑顔は鼻血ものである。場所が場所でなければきっと倒れていただろう。なんとか踏みとどまれたのは憧れの人の前で醜態を晒す真似はできないというプライドである。

「実は内緒なんですけど、」
「?」

そう切り出してしまったのは誤魔化すため? いや、違う。憧れの人の役に立ちたいからだ。

「ここから、ちょっと離れた場所にハーブが自生してる場所があるんです。シソとかタイムとか、ミントなんかもあって……もしよかったら教えましょうか?」
「ミント! その場所知りたい! あ、でもいいの? 内緒なんでしょう?」
「えと、内緒です。だからここだけの話で、他の人に教えないって約束してもらえるなら」
「約束するよ。絶対に誰にも教えたりしない。ね、セス。明日そこに行っていいでしょう?」
「構わない」
「やった」
「じゃあご案内しましょうか……?」
「あーーありがとう。でも私たち、バイクで来てるんだ。だいたいの場所だけ教えてもらってもいい?」
「あ、なら紙に書きますね」
「ありがとう」

本日二回目の笑顔いただきました。こちらこそありがとうございます。その素敵な笑顔写真に収めたいです、ええ、とても。出来れば笑顔の女帝を見つめて静かに微笑を浮かべる英雄もセットで。ついでにサインなんかももらえたならば、末代までの家宝にする。
リズは小さな紙に目的地の場所を書いてローズに手渡した。

「お二人は旅行中ですか?」

ちょっとだけ勇気をだして聞いてみる。

「そう、そんなとこ」

濁されたわけではない、と思う。けれど不意に覚えた疑問を、率直にぶつけてみた。

「このあたりは本当に何もないのにどうしてここへ?」
「気のむくままの旅だからね」
「どこまで向かわれるんですか?」
「最果てだ」

馴染みのない単語にドキリとする。
英雄が言った短い単語をリズは呟いて。
どうしてそんなところまで?
そんな疑問が顔に出ていたのだろう。女帝が、困ったような苦笑を零していった。

「いま駆け落ち中なんだ。だからだれもいない場所まで行くの」

これ、内緒ね。
儚げな女帝の笑みをかき消すように雷鳴が鳴り響いた。






end
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