連載V

□はじまりのマテリア
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「アンジール。お前はとりあえず急ぎの書類を仕上げてくれ」
「ああ」
「セフィロス。お前もだ。期日が近いのは向こう3日分くらいは仕上げろ」
「3日分?」
「とりあえず、だ。ジェネシス。お前も手伝え」
「仕方が無い」
「ザックス。お前、報告書は?」
「珍しく書き終わってるんだなーこれが」
「お前……出来るなら普段からしろ!」
「そんな堅いこと言うなってアンジール!」

お調子者のザックスに、アンジールの振り上げた拳は行き場を失って降ろされる。

「先が思いやられるな……。ザックスは装備の準備してこい。全員分のエーテル、ポーション、その他長期ミッションに必要と思われるもの、袋につめてもてるだけもってこい」
「長期ミッション? なんで?」
「なにがあるかわからないからな。万全の状態で挑むべきだ。それこそ発動と同時に一撃死でも繰り出してくる召喚獣が現れたらーーそこまで考えるべきだ」
「ふーん。でもりょーかい! ならさくっといってきますかねぇ」
「『鳩』に私のマテリアの準備をさせとくから受け取ってきてくれ」
「OK!」

駈けて行くザックスにアンジールが廊下は走るな! と叫んだが聞いていないだろう。ドタバタと騒がしく走り去る音がした。

「そこまで必要か?」
「……わからない。でもしておいたほうがいいと思うんだ」
「それは勘か?」
「ああ。どうしようもなく、胸騒ぎがする。本当はきっと軽はずみに使ってはいけないのものだと思うんだ。それでもお前たちの意思は変わらないんだろう?」

サラサの問いにセフィロスとジェネシスは揃って頷いた。

「お前たちも装備は万全にな。アンジールも。バスターソードの他に二本ぐらいは準備しといて。予備はいくらあってもいいと思うから」
「わかった。お前の勘を信じるとしよう」

頷いたアンジールにほぅ、とサラサが安堵の息を吐く。するとツンツンと髪を引っ張られた。振り返ると唇を真一文字に結んだセフィロスが不機嫌ですオーラを発してサラサを見上げていた。

「なんだいきなり」
「オレもお前の勘を疑ってはいない」
「でもやめる気はないんだろう?」
「ーーああ」

『知らないこと』はセフィロスの好奇心をたまらなく刺激するものだということはサラサも心得ている。こと戦闘方面に関しては実力は当然のことながら知識も人三倍以上あるセフィロスに見たこともない、発動したこともないマテリアを差し出すなんて格好の餌である。そしてその餌を前に『待て』など彼には出来るはずがないのだ。だからこうして妥協したというのに一体彼は何が気に食わないというのか。
心底わからないというサラサに、不機嫌オーラを隠すこともしないセフィロス。

「愚かなり女帝。愛した男の心の機微もわからぬとは英雄も浮かばれぬ。嗚呼哀れなり」

ジェネシスは笑い、アンジールは苦笑した。

「ザックスが戻ってくるまでにはまだ時間があるだろう。俺たちは一旦準備してくるとしよう。書類はそれからだ」
「サラサ。オレたちが戻ってくるまでにその男の機嫌を治しておけ」

言って二人は部屋を後にした。
残されたサラサはセフィロスを見、それから携帯電話を取り出し電話をかけた。ワンコールで出るのはサラサの腹心である。彼にマテリア一式ザックスに持たせるように頼み電話を切ると、英雄の機嫌はさらに悪くなっていた。

「どうしたんだ?」
「お前はアンジールにばかり構う」
「そうか? そんなことはないと思うが。というか何故アンジール?」

はて、とサラサは首を傾げる。

「オレのほうがおまけみたいだ」
「は?」
「もう知らん」

プイと顔を背けたセフィロスは本格的に拗ねモードである。あ、拗らせた、とサラサは思った。ついでに面倒だとも。だがそれを言えばさらにこじれるから言わないが。

「セフィロス。お前は私がアンジールばかり構うというが、私としてはお前のほうを優先していると思うんだけどね」

男を後ろから抱き込んでサラサは唇を尖らせる。

「お前が私を信じるのは当然のことだろう? 私だってお前のことを信じているし」
「……」
「この得体の知れないマテリアだってお前の意見を尊重した。ま、3対2で負けていたというのもあるけど。それでジェネシスとザックスはたとえ今回の騒動で怪我をしても自業自得。だけどアンジールは反対派だったから怪我なんてさせられないでしょう? 巻き込んでしまったというのに」
「同じ1stだ。怪我の心配なんて……。それにオレの心配はないのか」
「うん? 必要ないでしょ。セフィロスのことは私が守るんだし」

大きな手のひらが伸びてきてわしわしとサラサの頭を撫でる。サラサは髪が乱れようが頭が痛かろうがセフィロスの好きなようにさせた。それで彼の機嫌がなおるなら安いものである。

「お前はオレが守る」
「ありがとう」











書類は向こう3日分済ませ、ラザードへ提出し。その量に驚かれ、なにか企んでいるのではと胡乱げな目で見られたのはご愛嬌だろう。ソルジャー部隊は(主にトップのせいで)信用がない。
ザックスがかき集めてきたポーションやエーテルを分配し、5人はヘリポートへとつながる屋上へと移動した。そこであれば十分な広さがあり、何かあっても周囲への被害は最小限で済むからだ。
屋上の中央で5人は円を組み各自持っていたマテリアを合わせるように円の中央へと突きつけた。

「何があっても冷静に対処しろよ、特にザックス」
「イエッサー!」
「勝てないと思ったら逃げろ。いいな、ザックス」
「……イエッサー!」
「ヘマをするなよ、仔犬」
「だあぁあぁ! なんでオレだけ!!」
「オレたちが遅れをとるわけないだろう」
「へいへい。天下の1stカルテット様ですもんねぇ」
「いじけるな。面倒なやつだ」
「そうさせたのはお前じゃないかジェネシス。戯言はそこまでだ。ザックス、読み取ろうなんて考えなくていいからありったけの魔力を注げ」
「わかった」
「みんな、絶対に無理はするなよ」

サラサの言に全員が神妙に頷いた。けれども溢れんばかりの好奇心に苦笑する他ない。

「掛け声はセフィロス、頼んだ」
「ああ」

ぎゅ、とマテリアを握りしめる。

「行くぞ」

五つのマテリアにありったけの魔力が注がれる。マテリアが黄金色に輝き、溢れた光の粒子が5人の周りを囲むように渦をつくる。
次の瞬間、マテリアから強烈な閃光が迸りーー5人は屋上から忽然と姿を消したのだった。








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