連載V

□昨日と同じ日常はもうこない
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「アンジールとジェネシスはどうしてる?」
「二人ともミッションで出払っている」
「そうなのか」
「何かあったか?」
「いや、そういうわけではないんだ。元気にしてるかと思ってな」
「うるさいくらいだ」
「そうか。それは良いことだ」
「先ほどの18:00に正面玄関とはなんだ?」

一瞬の沈黙のあとセフィロスがそう問うた。

「ん? ああ、飲み会だ」
「飲み会?」
「そう」
「ごちになる、というのは?」
「私のおごりってこと」
「ほう?」
「長期ミッションの後は皆で必ず行くんだ。ストレス発散も兼ねて野獣の如く食いし、愚痴を聞き酒を飲み笑い潰れる。私からの細やかな褒美みたいなものさ」
「褒美?」
「私は長いこと1stやってたわけだけどミッドガルにはあまりいなかっただろう? それこそ辺境地で1年2年たらい回しにされることが多かった」

与えられるミッションこそSSランクの代物だがミッションから次のミッションまでがとてつもなく間があった。それこそ一度ミッドガルに帰還出来るくらいには。その期間、帰還命令は一度もなくずっと現地に留められていたのだ。女ソルジャーはいらないというプレジデントの方針のもと冷遇されていたといっても過言ではない。

「あいつらは私の部下になったばかりに上層部に振り回され帰還すらままならなかったが不満も不平も言わずずっと私についてきてくれた。そのささやかな礼さ」
「それはお前がすることではないだろう?」

確かに仕事だからと切り捨てることは簡単だ。それでなくともサラサの配下は『曰く付き』ばかりである。彼らを見捨てなかったサラサこそ彼らにとって恩人ではないかーー……そう言うセフィロスにサラサは首をふった。

「お前の言うとおりだけどね。でも私の気持ちなんだ。部下と交流を持つことで彼らとの人間関係を構築出来るだろう? 美味い酒に美味い飯というのは交流の場に欠かせない。酒が入れば口は軽くなるしな。普段は言えないことを言ういい機会になる。アンジールたちと一緒にご飯を食べるようなものだよ」

それにただのサラサとして出向くことに意味がある。ソルジャークラス1stサラサという仮面を脱ぎ捨てなければ出来ない話もあるわけで。
そもそも飲み会を始めたきっかけは彼らを一つに纏めるための手段だった。おごりなのはそう言えば彼らが着いてくるからだ。始めは打算ありき。次第にそれが定着し、今に至る。女帝の給料であれば彼らに一食彼らに奢ったところでさして損失と呼ぶほどのものでもない。当時を思い出して小さく笑ったサラサは指定の階に到着した知らせにはっとして開いたドアから降りる。

「セフィロス?」

一向に降りてこない彼を不思議に思い振り返った視界に、伸びてきた長い手が写った。
あっという間に再びエレベーターのなかに引きづりこまれる。抵抗する間もなくエレベーターのドアは誰も乗せることも降ろすこともせぬまま閉まり抗議の声をあげようとした刹那、己の唇に温かなものが触れサラサは言葉を失った。

「っ……!?」

衝撃は大きかった。
抵抗の声は呼吸ごと持って行かれた。僅かな隙間から男の柔らかな舌が侵入し、口内を嬲る。歯列をなぞり逃げるサラサの舌を追いかけて弄ぶ。

「ふ……んぁ……」

自分のものではないような鼻にかかった甘い吐息にぴちゃぴちゃと淫らな音が狭い空間に響く。聴覚まで犯された気分だった。
チン、と再びエレベーターのドアが開いてサラサは漸くセフィロスから解放された。

「なん、で……」

腰が砕ける寸前までの熱烈なキスが終わり安堵したのも束の間強引に腕を引かれてエレベーターから下ろされる。
その階はセフィロスの私室のある階だった。セフィロスが寮に移り住む前に使っていて、今でも仕事に忙殺されると時折使うという1フロア全てセフィロスのためにある階である。
神羅でも限られた人間しか入れない。それこそカードキーと暗証番号の両方を持っているものしか、エレベーターに乗ってもその階に向かうことすら出来ないのだ。サラサでさえ初めて足を踏み入れる未開に地である。

「ちょ……まっ……待って!」
「女がここに来たのは初めてだな」

男はクツリと笑って乱暴にカードキーを通し自動ドアをくぐり抜けそのまま寝室へとサラサを引き摺り込んだ。キングサイズのベッドに放り投げられる。ぼふりと音をたてて柔らかな布団に華奢な体が沈む。高級感溢れる実に寝心地の良さそうなベッドだが今のサラサにとっては動きにくいことこの上ない。忌々しいと舌打ちをして起き上がろうとするが男に覆い被さられて体の自由を奪われた。
サラサはきつくセフィロスを睨んだ。

「何の真似だ? ふざけるのも大概にしろ」
「ふざけてなどいない」

怒っているような声音だった。星の色を宿した瞳が苛烈なまでの光を宿している。表情に大きな変化はないものの男の内側から発せられるオーラは不機嫌な時のそれだった。

「何を……怒っている?」
「別に怒ってなどいないさ」

ならばその表情、そのオーラはなんだというのか説明して欲しい。

「お前が悪い」
「何がだ?」

そう問うと唇をへの字に結ぶ。本当に意味がわからない。今も、前も。

「とにかくどいてくれ」
「何故?」
「何故って……私はミッション帰りだぞ。報告しなければならないし、約束もある。お前のわけのわからない行動に付き合っている時間はない」
「時間ならまだ十分ある。いやなら抵抗すればいい。全力でな」

そう言ってセフィロスはサラサの服に手を伸ばした。器用に片手でボタンを外しインナーに手をかける。

「ちょ……! ふざけるな! なんの真似だ!」
「見ればわかるだろう」
「ああわかるとも。その上で聞いているんだ」
「ーー三ヶ月ぶりにあったお前が、」
「……?」
「変わらずにいた。だから腹が立った。オレよりも部下を優先するのも気に食わない」
「は……?」
「お前が悪い」

誰か翻訳してくれ。それか通訳をつけてくれ。今すぐに。

ーー意味がわからない。

セフィロスは本気で行為に及ぼうとし、サラサは必死で抵抗するが悲しいかな女が力で男に勝てるはずもなく。またミッション帰りの疲れきった体では本気を出すことも出来なかった。それでも悪態をつけるだけついたが男は楽しそうに笑うだけだった。

ーーもうどうにでもなれ。

抵抗をやめたサラサにセフィロスは嬉しそうに笑った。
子供が母親に甘えるように。
星の色を宿した瞳に安堵の色を浮かべて。





end
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