連載V

□神羅屋敷にて
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クラウドたちとともに乗り込んだ神羅屋敷で、各自探索することになった。
サラサは仲間と離れ、一人廊下を歩いていた。目についた扉は片っ端から開けていく。ベッドだけが置いてあるへやに何もない部屋。肖像画だけが飾られている部屋もあった。次に開けた部屋は質素ながらも生活に必要な調度品が全て揃った部屋があった。

「……?」

ふと、脳裏を掠める何かがあり、サラサは首を傾げる。誘われるままにその部屋へと入り、辺りを見渡した。代わり映えのないテーブルに古びたベッド。本棚にはぎっしりと本が詰められている。

「うーん?」

一冊手にし本をめくれば読んだことのある内容が書かれていた。だがしかし自分は目が覚めてから一度も本を読んでいない。それどころか本に触れるのも久しぶりな気がする。
ーーはて、久しぶりとは。
以前の自分は本を読む人間だったのだろうか。
サラサには目を覚ます前までの記憶がない。それでエアリスを酷く悲しませ、ティファからは猜疑の目で見られるのだが、無いものはないのだ。自分だってはやく思い出したいけれどーーどうしてかエアリスを悲しませたくはないのだーーどうすれば思い出せるのか全くわからない。こうしてクラウドたちと共に旅を続けることさえ最良かどうかもわからないが、エアリスと同様に自分も神羅に追われていることから旅を続けるしかないのだ。
この神羅屋敷を目にした瞬間、サラサは自身の中に得体の知れない衝撃が走るのを感じていた。だからここで記憶を思い出せるのかも知れないと思い別行動に至ったわけなのだが。
読んだことはないけれど内容の知っている本を放り投げ次の本を手にする。この本も内容は知っていた。

「……私は昔、ここにいた?」

するりと落ちた疑問を確かめるようにサラサはもう一度辺りを見渡した。
罅の入った窓。ーーどうしてそれがわかる。カーテンはしまっているのに。
スプリングのきかないベッド。ーーどうしてそれがわかる。寝たこともないのに。
誘われるままカーテンを開ける。窓ガラスには自身が思っていたところに罅が入っていた。ついで埃まみれのベッドに座ってみる。こちらも予想通り弾まない。

「この部屋にいた……。でも、いつ?」

それが思い出せればきっかけになるのではないだろうか。
再び本棚の前に移動し、本を手に取る。読み返せば何か思い出せるかもしれない。もう一度辿ってみよう。そんな思いからサラサは一心不乱に本を読み漁った。
















サラサがいないことに気づいたのはヴィンセント・ヴァレンタインという男が仲間になってからだった。セフィロスを追って二ブル山へと行こうという時に出鼻を挫かれた仲間たちはサラサの姿を求めて屋敷を探索することにした。

「扉があいてるから、すぐに見つかりそうだね」

エアリスのいう通り、サラサが通ったと思われる通路の扉という扉は全て開かれたままになっていた。随分とわかりやすい目印だ。
そして彼女はすぐに見つかった。
本棚の前に立ち本を読み漁っては読み終えたものを投げ捨て次の本に取り掛かり、ブツブツと呟きながら本棚の前を行ったり来たりを繰り返している。その光景にクラウドはひゅっと息を飲んだ。
忘れようもない、あの日。
セフィロスはそうしておかしくなっていった。その姿を自分は目にしていたのだ。

「サラサ!」

厳しい声で叫んだのは、彼女もまたその場にいてセフィロスの豹変ぶりを呆然と見ていたからである。もしや記憶を思い出した彼女がセフィロスを模倣しているのではないかーー。そう思うのは、二ブルヘイムを焼き払われ、故郷を失った自分のトラウマなのかもしれなかった。自分の声にティファたちが驚いたように肩を跳ねらかせたが、それよりも返答のないサラサの方が気になってそれどころではなかった。
ずかずかと室内に入り彼女の肩を掴み、振り向かせる。

「うわ……!?」

驚いた声を上げ、きょとりと魔晄色に染められていない紫色の瞳を瞬かせた彼女はクラウドを見上げて「ふえ?」と小さく呟いた。
その瞳が狂気に染まっていないことにクラウドは安堵した。

「クラウド? どうしたの?」
「いや……あんた、何か思い出したのか?」
「え? ううん、何も」
「もうクラウド! 驚かせないでよ」

二人の間にエアリスが割って入った。

「エアリス」
「あのね、これから二ブル山へと向かうの。私たち、サラサを探しにきたんだ」
「あ……ごめん。探させちゃって。この部屋、どうしても気になって」
「何かあった?」
「ううん。でもね、私、ずっと前にここにいたことがあるような気がするの。それがいつかわからないんだけど。窓ガラスに罅が入ってるこことか、知っていたの。だから……本の中に何か手がかりがあるかなと思ったんだけど、なかったみたい。何も思い出せないや」
「そっか。じゃあ先に進んでもいい?」
「うん。ごめんね、手間取らせて」

しょぼんと眉を下げて謝るサラサにエアリスは首を振って、行こ、と促した。

「ほら、クラウドも」
「……ああ」
「ごめんね、クラウド。別行動取っちゃって」
「別に」

サラサはヴィンセントと自己紹介を交わし、バレットに怒られてエアリスの隣をしょんぼりと歩いていた。
杞憂だったそのことに安堵し、クラウドは来た道を引き返した。
彼は見なかった。落とされた本の中身を。その本が表紙と中身が一致していなかったことを知らない。とある研究者の手によってすげ替えられていたことを知らなかった。





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