連載V

□言葉は意味を成さずに地に堕ちた
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ソルジャークラス1stジェネシスが、ウータイにて消息をたった。

その情報をソルジャー司令室でラザードから聞いた時、サラサはただ首を傾げるばかりだった。同じく呼ばれていたセフィロスとアンジールもだいたいサラサと同じ反応だった。
日に日に過激になっていくウータイとの戦争で、ジェネシス率いるソルジャー部隊が最前線に投下されたのはつい最近のことである。数えて7日前のことだ。
今度こそ英雄になってやると頼もしい言葉を残して戦地に旅立った彼は、定期報告も寄越さず、彼と同行した他のソルジャーとも連絡が取れず忽然と消息を絶ったらしい。

「ジェネシスほどの手練れがウータイに遅れをとるとは思わないけれど」
「電波の通じない地域にいるんじゃないのか?」
「機械の故障かもしれんぞ」

口々に言う言葉に彼のことを心配する発言がないのは、ジェネシスの実力を誰もが知り、死ぬはずがないと信じているからである。ラザードも静かに頷くが依然として表情は厳しいままだ。

「だがこのまま連絡が断たれたままであれば、我がソルジャー部隊の沽券にも関わってくる。サラサ、明日0700を持って君と君の隊にはウータイに飛んでもらう」
「随分と急だな」
「もしジェネシスの部隊が壊滅しているのであればウータイの連中は活気付いてミッドガルにも手を伸ばすだろう。その前にウータイに行きジェネシスと彼の隊を見つけ何があったのか報告してくれ」
「はいはい。あいつに限ってそんなヘマはしないと思うけどね。私も暴れていいんだろう?」
「ああ、構わない」
「じゃあ様子を見て突っついてきますかねー」

ラザードほどの深刻さを持ち合わせていないサラサの口調は軽い。実際サラサはそれほど深刻ではなかった。連絡が取れないのだって、機械の故障か電波の届かないところにいるのだろうと、そう思っていた。
セフィロスやアンジールと司令室を後にする。

「一体何があったのやら」
「気をつけろよ」
「わかってる。アンジール?」
「ん? あぁ、いや、ジェネシスのことが気になってな」

一人暗い顔をしていたアンジールに気づいてサラサが声をかければ彼は苦笑を浮かべてそう言った。

「大丈夫だって。あいつの怪我も治ってたし万全の状態だったんでしょ? 余裕つけて少し寄り道してるだけだって」
「だといいが……」
「随分と弱気だな?」
「ミッションが下った後、どこか気落ちしていたような気がしてな。いや、その前から塞ぎ込んでいたような気はしていたんだ。何事もなければいいんだが」
「大丈夫だよ、アンジール。こんな戦争すぐに終わって、また4人で並んで歩けるさ。その時は美味しいもの食べに行こうよ」
「オレはお前の手料理が食べたい」
「それ、ご褒美になんないじゃん。ねぇアンジール?」
「そうだな」

彼は苦笑してサラサの言葉に頷いた。

「この間いい店を見つけたんだ。ジェネシスとサラサが帰ってきたらみんなで行こう」
「よっし! じゃあパパ〜っといってさくさくっと終わらせてくるかなー」

ことさら明るく笑うとセフィロスが口端を吊り上げ、アンジールも朗らかに笑う。元の調子に戻ったアンジールと、暴れてこいと言ったセフィロスに別れを告げて、彼女は次の日ウータイに旅立った。























ウータイは死臭と血潮そして炎と硝煙に包まれていた。
先攻した神羅兵が後先考えずに物を破壊し行進したらしい。残虐非道と言われるだけはあって、その光景はなかなかに凄惨である。幾つもの戦争を体験してきたサラサにとって、戦争とはこういうもんだ、という達観にも似た感情を抱いているが、焼かれた森や荒れ果てた大地には悲しみを抱いた。
サラサがそこについた時、爆撃は止んでいた。銃声も聞こえない。小休止中なのか砦が陥落したからなのかは情報がないためわからなかった。

「イレイス、携帯の電波は?」
「あります」
「よし。これからジェネシス率いるソルジャー部隊と合流する。みな、引き締めてかかれ!」
「「「はっ!!」」」

サラサは先陣をきって走り出す。目的地はジェネシスが音信不通となった場所である。森を抜けた僅か数キロメートル先である。
行きのヘリの中でもサラサは何度もジェネシスに電話したしメールもした。ウータイが近づいても繋がらない電話に焦りが生まれる。

ーー無事だよな、ジェネシス。

アンジールに連れて帰ると約束した。みんなでまた肩を並べて歩くことが出来ると純粋にそう思っていた。彼らが強かったから不安なんて何もなかったのだ。
森を抜けるとそこは廃墟とかしていた。崩れ落ちたウータイの砦は門が完膚なきまでに破壊されその役割を終えていた。すぐそばにあるのは神殿だろうか。建物は傾いており今にも崩れ落ちそうだ。

「ひとっこひとり見当たりませんね」
「ああ」

イレイスの耳打ちにサラサは頷いた。
周囲に人の気配はない。ソルジャーも、ウータイの戦士も、ジェネシスの姿も。闘った戦闘の傷跡だけが残っている。

「どうしますか?」
「グレン、B班を率いて砦の外を回れ。伏兵に気をつけろよ。何かあったら照明弾で合図を。他は私と共に砦の中を探索する」
「「はっ!!」」
「一時間たったら座標スピカで合流だ」
「「イエッサー!!」」

グレン率いるB班が森の中へと向かっていく。サラサは砦の中へと進行した。
砦の中にも人の気配は感じられなかった。サラサたちの走る音と、鎮火されない炎が燃やしていく爆ぜる音で包まれている。罠の類も見受けられなかった。
砦の規模が大きいため、ジーン率いるC班と二手に分かれて探索を行う。

「イレイス、電波はあるか?」
「あります」
「何故電話に出ない……ジェネシス……」

電波障害のせいで携帯が繋がらないのだと思っていた。
もし他に、彼らが電話に出れないような状態にあったら。もし、壊滅していたら。

「クソ……!」

サラサが悪態をついた時だった。マナーモードにしていた携帯が震える。
サラサは即座に取り出して、発信者を見た。

「ジェネシス……!?」
「サーからですか!?」
「ああ。……もしもし」
『お前が来たのか』
「何故電話に出なかった! 今どこにいる!? 答えろジェネシス!!」
『人の一生は儚く短い。まるで太陽が昇り沈むのと同じように』
「何を……!!」
『来たければこい。俺は逃げも隠れもしない』
「ジェネシス……!!」

サラサの叫びも虚しく電話は切られた。無情な機械音が耳に響き、そこに相手がいないことを知らしめる。

「サーはなんと?」
「来るなら来いと言っていた。イレイス、砦の外の西には何があった?」
「確か採掘場です」
「何故そんなところに! 今からそこへ向かう」
「B班C班を呼びます」
「いや、いい。あいつが何を考えているかわからんが、仲間に会いに行くだけだ。応援はいらない」
「ですが……!」
「不要だ。A班はイレイス、お前が先導しろ」

タタン、と屋根の上に駆け上り砦の外へ最短経路で向かう。ソルジャーは着いてこれるがただの一般兵には無理な芸当である。そのためA班は取り残されることになった。
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