連載V

□言葉は意味を成さずに地に堕ちた
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切り立った剥き出しの採掘場の上に彼の姿はあった。

「ジェネシス!!」
「よくこの場所がわかったな」
「お得意のポエムかと思ったがな。儚い一生と昇り沈む太陽……人の死を太陽が沈むと捉えるなら方角は西だろう。西に潜める場所などここしかない」
「流石だな」

戦場にまでLOVELESSを持ち込んでいた彼は、サラサが来るなり視線を本からあげた。
そして。

『君よ、飛びたつのか?
われらを憎む世界へと
待ちうけるは
ただ過酷な明日
逆巻く風のみだとしても』

彼の口から語られたのは、詩篇の一説だった。LOVELESS第三章である。

「ふざけるな……!! 何故定期連絡を寄越さなかった? 何故消息を絶った? 何故電話に出なかった!? 答えろ!!」
「何故、何故とバカの一つ覚えのようによく囀ることだ。らしくない」
「らしくもなくなるだろう!! 連絡が取れなくなって、どれだけ心配したか。アンジールもセフィロスも心配してたんだぞ。当然私もだ!」
「あいつらの名を口にするな!!」

刹那ジェネシスの手から炎の玉が放たれた。サラサは顕現させた大剣で炎の玉を真二つに斬り落とした。

「なんの真似だ?」
「あいつが……セフィロスが、俺の心配などするものか」
「何故そう思う。確かにあいつは言葉数は少ないが、態度には良く出すだろう。お前だってそれを知っているはずだ」
「さすが女帝。あいつのことを良く知っている」
「女帝だとかそんなことは関係ない! だいたい今はそんな話をしていないだろう?」
「サラサ。ソルジャーの強さがナニから生まれたかお前は知っているのか?」
「……何?」
「英雄セフィロスの出生をお前は知っているのか?」
「知らない。だがそれがどうしたと言うんだ?」
「ソルジャーがナニから生まれ、ナニになるのか。俺は知った。俺たちはモンスターだ」
「は?」

刹那、ジェネシスの背に片翼が生えた。闇を凝縮したかのような色をしている。ジェネシスの整っている容姿とあいまって、聖書に出てくるミカエルやガブリエルのように美しくこの世にはない幻想的なものに見えた。

「ジェネシス……?」

それは、作り物などではなかった。ジェネシスは切り立った崖の上から飛び降りると、その片翼を持って重力など感じさせず優雅にサラサの前に降り立った。作り物であればそんな芸当出来はしない。

「この姿を見ろ。俺たちソルジャーの行き着く先だ」
「なん、で」
「片翼が生えた、か? モンスターだと自覚したら生えるようになった。お前とてそうだろう?」
「私は翼なんて……ない」
「お前がまだ認めていないからだ。認めてしまえば楽になる。自分が好戦的なのも、殺戮を好むのも、全てはモンスターだからだと」

ジェネシスの、手袋を纏った手のひらがサラサの頬に触れた。彼の指先が驚愕に思考を止めるサラサの頬を慈しむように撫でた。

「サラサ、俺たちは仲間だろう? 同じモンスターとして、神羅に復讐しようじゃないか。夢も誇りもすでに失い何もかも奪われ、命すらつきかけている魂には絶望と復讐しか残されていない」
「復讐……?」
「そうだ。俺たちをモンスターにした神羅へ復讐だ。お前だって記憶を、もしかしたら過去の記憶に対する感情すら奪ったのが神羅だと、薄々勘付いているんじゃないのか?」
「っ……!? なんで……!」
「ホランダーの言葉は当たりだったか」
「お前、何を知っている!?」
「仲間になるなら教えてやろう。俺の手を取れ、サラサ。復讐の幕開けだ」

差し出された手を、サラサは振り払った。ぱしんと乾いた音がする。サラサは僅かに後退し、彼から距離を取った。

「何故だ?」
「違、う……違う! 私はモンスターなんかじゃない。化け物だけどモンスターとは違う! ジェネシス、お前もだ! お前もソルジャー部隊の連中も、みんな人間だ。お前の手を取るということはお前や、ミッドガルで心配しているあいつらがモンスターだということを認めることと同義だ。そんなことあるわけない……!!」
「情報はいらないのか?」
「そんなもの、いらない! 過去の記憶に対する感情があろうとなかろうと過去はもう返ってこない。そんなものなくたって私は私だ! ジェネシス!! どんな姿であったって、お前がお前であるように……!!」
「……ふん、偽善だな」
「お前こそ私の手を取れ。今ならまだ、帰ってこれる。お前が打ち明けた胸の内は私が墓まで持っていくし、命の灯火が尽きるというのなら共に治療法を探そう」
「それは親友として、か?」
「当然だ!」
「当然、か……。お前は何も分かっていないな」
「何?」
「その言葉がどれだけ俺を傷つけるのか……セフィロスの隣に立つお前を見て、どうしてセフィロスなのかと憤りを覚えるくらいに……お前は残酷に微笑みかける」
「ジェネシス……?」

離れていた距離が再び縮まった。かつかつと靴音を立てて、ジェネシスは歩いてくる。サラサが見上げた双眸は彼の言う通り怒りと、嫉妬の色に濡れていた。

「俺のものにならないならいっそ殺してしまおうか」

言葉と共にばさりと音をたて片翼が消える。ひらひらと漆黒の羽根が幻想的に宙を舞った。
そして。
冷たい唇がサラサの唇に落とされる。氷のような冷たさだった。生きた人間がここまで冷たくなれるのかと恐ろしく思えるほどに。重なった唇はすぐに離れていった。

「じぇねーー」
「『復讐にとりつかれたる我が魂
苦悩の末に 
たどりつきたる願望は
我が救済と
君の安らかなる眠り』」

切なげな表情で語られたそれに、サラサは固まった。

「さよならだ、サラサ」

はっと気付いた時にはもう遅かった。
親友が本気で剣を手に取ることなどない油断していたのもある。距離をとろうにも彼のほうが一秒速かった。
振り上げられたレイピアがコートと肉を切り裂いた。

「隊長ーーーーーー!!!!」

空に鮮血が舞う。視界に入った噴き出た血潮が己のものだと理解すると同時にサラサの意識は暗闇に飲み込まれたのだった。






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