誕生日企画

□好きで嫌いで、大好きで
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―五月五日。


(……どうしてこんな事になってしまったんだろうか)


「渡しそびれちゃったな…。」


夕刻の自室。
手に持ったそれを途方に暮れたようにただ見つめていた。




きで嫌で、大好


………ニ日前。


「なあー…総司」


八木邸の庭で素振りしていて、その合間の休憩で縁側で寛いでいると平助が声を掛けてきた。


「……何、何か用?
さっきまでずっと素振りをしてて、ちょっと疲れたから今一休憩してて忙しいんだけど」


「それは忙しいって言わないだろ…て、そうじゃなくて。
俺、今日夕餉作る当番だからさ、そろそろ支度終わりそうだから土方さん呼んできて欲しいな、て思って」


「ああ……」


―土方さん、か。



「ていうかさ、平助が呼びに行けばいいじゃない。すぐソコなんだからさ」


空を見上げれば日が少し傾いて辺りは薄暗くなり始めていた。


…そんなに自分稽古してたんだ。


土方さんの部屋の近くで昼間から稽古はしていた、が。
夕方の今現在まで一度も見かけていない。

多分仕事が立て込んでいるのだろう、最近は籠りっぱなしな日が増えつつあった。


「え……いやっ
総司って土方さんと何だかんだ仲が良いだろ?俺まだやる事あるし……いつも壬生寺で素振りしてる総司だって今日は土方さんの部屋の側の縁側にいるしさ」

「……っ」


(……まあ、否定は出来ない…けどさ)


「分かったよ、呼んでくるから。平助は夕餉の支度の準備に戻りなよ」

「あんがとな、悪い!」

と平助は踵を返しバタバタと走って去っていってしまった。


「仲が良い……ね」


…はたして平助は、土方さんをいつもからかってて言い合いをしているという意味で仲が良いって言っているのか、はたまた別の意味か。

まあ、おそらく前者だろうけど。


土方さんと僕が恋仲だって事に気付いているんだか、いないんだか。


(さて、呼んできてと頼まれてしまったからには用は済ませないと…ね)


……そういえば。

「そろそろ土方さんの誕生日…か」



***


「土方さーん、失礼します」


あれから素振りをするのを止め、用を済ませるべく土方さんの部屋にやって来た。
スススと襖を開けて中に入る。

土方さんの部屋は結構落ち着くので、居ないときはよくゴロゴロして入り浸っている。

―いや、居てもゴロゴロしてるけど。


「……総司、勝手に入ってくるんじゃねえよ」

はあ、と溜め息を吐きながら此方を向くことなく書状に目を通している。横には積まれた書類。

まだ見るからに忙しそうで、言葉に覇気がないので疲労が結構溜まっているように見受けられた。

「いいじゃないですか別に。
入り浸ってたりするのはいつもの事じゃないですか」


「……勝手にな。
……そうだけどよ。見ての通り仕事が溜まってんだ、用がないなら出ていってくれねえか」


「用事は……まあ、あるっちゃあるんですけど。
そろそろ夕餉のお時間ですけど、土方さん大丈夫ですか?平助に呼んできてくれって頼まれたんで」


「……悪い、行けそうにないな。後でここに山崎か斎藤にでも繕を持って来させる」

全く此方を向くことなく答えるその姿に少し寂しさを感じる。


(…少しくらいこっちを向いてくれたって。)

「……そう、ですか。あんまり無理しないで下さいよ、自分の身体なんですから」


こんな感じだからあまり長居しても集中出来ないかもしれない。


「用はそれだけです、それじゃ失礼しますね」

そう告げると土方さんの背中を少し見つめ部屋を後にした。


―パタン。

「まあ、忙しいし……ね」


明日辺り。
誕生日の贈り物と仕事の疲れが少しでもとれるように何か食べ物買って来ようかな。

そう思案し、夕餉の為広間へと歩みを進め始めた。



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