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□何ということはないのだが、
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がたん、がたん、と静かに揺れる電車に私達もまた揺られながら流れる景色を見ていた。
「‥‥‥」
隣にいる一氏ユウジは一応私の彼氏だ。一応っていうのは‥‥あまり恋人らしいことしないから。ユウジは他の人の彼氏と違って、甘い言葉を囁いたり、手を繋いできたりしない。
小春ちゃんといる時は、常にベタベタしたり、小春は俺のや!なんて言ったりしているのに。私と一緒だと完全に受け身だし、ましてベタベタなんかしてくるそぶりすらない。
「(硬派なのかな‥)」
一時期は何もして来ないユウジにヤキモキしたり、はたまた自分は好かれていないのではないかなんて悩んだりもした。
何で、と聞いたっていつも曖昧な返しばかりだし‥‥最近は硬派ということで自分を納得させるに至ったわけだが。
「‥誰も乗ってこぉへんな」
「うん‥ローカルだからじゃない?」
「ああー」
この日曜日の昼間から、何故か私達はローカル電車に乗っているのだ。今の時期ならクリスマス一色の都心に行って少しくらい恋人気分というものを味わいたいんだけどな。
ユウジが宛もなく電車に乗りたいって言った昨日の電話が事の発端である。
『名前、明日暇?』
『暇だよ。なんかあるの?』
『いや、特にないねんけど。予定ないなら明日会えへん?』
『会える。』
『ほないつもの駅に11時な』
『何するの』
『‥‥電車乗ったり?』
『う、ん‥‥わかった。』
何故あの時に了承してしまったのだろう、と今になって若干の後悔ばかりをする。
ローカル電車に私とユウジだけ、でも会話はない。そんな時間が30分は経とうとしていた。
二人だけの空間が嫌だとか、そういうのじゃないんだよ。でも、ぶっちゃけユウジ何やりたいかわかんないよ。
「‥‥何で電車に延々と乗ろうと思ったの?」
「怒っとる?」
「ちょっとだけ怒ってる。」
ユウジが聞き返したってことは、声に私の怒りが出ていたのだろう。ならもう別に隠す必要ないから‥‥なんて本音を言った。
「さよか」
「‥‥‥」
「いやまあ、正直自分でも何してんねやろって思うてて。」
「自覚してたんだ‥‥」
「まあ‥‥たまには名前とゆっくりしたかったっちゅーかさ」
「‥‥‥」
次に出て来た言葉が少し意外で、私は隣にいるユウジを見た。
「あの‥‥」
何ということはないのだが、
(相変わらず曖昧に言葉を濁したけど)
(真っ赤な耳の君を見たら)
(何も言えなくなってしまった)
fin.
→あとがき