short

□郵便屋さん
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俺は今日もまた、この白い空間にいる名前に会いにやって来た。



「‥これ、昨日の分。」


「あ。いつも有難う、」



目の前にいる彼女、名前は――いわば保健室登校というのか。もうここ二ヶ月ほど彼女はクラスに来ていない。



「‥たまには、クラス来いや」


「そんなん言うてくれんのユウジぐらいやもん。」



少し寂しそうに、でもどこか諦めたような表情で名前は笑い、外へと目をうつす。



「私が今行った所で、皆が嫌な思いするだけ。私もね。だからここがええのよ」


「‥‥‥‥」



名前と俺は幼なじみ。
小さい頃からよく一緒にいたが、中学に上がってからはあまり会話はしていなかった。

順調に中三を迎え、落ち着き始めた中での名前の学校拒否。名前は何も言わなかったが、大方察しはついている。



「‥謙也ともう別れたんやろ?来ればええやん。」


「嫌だよ、同じクラスやし。白石もおるから‥‥」


「‥‥‥」



この話はもうツッコまない方がええのかなあ、なんて思いながら、でも謙也さえおらなかったら普通にこいつは過ごせたのになあーなんて。



「(謙也なんか選ばなかったら良かったんちゃうんかい)」



謙也と付き合ってた頃の名前は楽しそうだった。でも、可哀相だなあ、なんて心の片隅で思ったり。


謙也は人気が有るし、ファンクラブも有る。謙也の人柄的にも凄くモテるのにあの容姿やから余計にモテる。謙也が悪いのどうこうではなく、そんな男と付き合うということはそれなりのリスクがあることはわかってたんやろか。



「ユウジ、なんか‥‥いつもありがとね。」


「気にすんなって。好きでやっとるだけやから。」



名前とはクラスが違うのだが、試験範囲は一緒なので代わりにノートをとってやってはこうして届けているのだ。

誰に頼まれたわけでもない。
でも、気付いたらとってた。



「あ、俺もうそろそろ行くわ」


「うん‥‥ありがと」


「いいえ。ほなな」


「ばいばい」



にこにこと笑う名前に笑い返し、俺はその白い空間から一歩外へと出る。



「‥‥‥」



授業がもう始まるからか、廊下には俺だけしかいない。閑散としたこの空間が俺は、大嫌いやねん。俺がいなくても別にいい‥‥みたいな。



そして俺は知っている。嫌なら来なきゃええ学校も、何で来てるのか。



彼女が待っているのは俺ではなく、謙也なのだ。俺はそれを知っていて毎日会いに行っている。名前が保健室登校してるのは俺しか知らない。だって、教えたらきっと君は――




郵便屋さん

(こうでもしない限り)
(君に近付けない)
(俺を許してくれ。)




fin.


→あとがき



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