short

□我が儘
1ページ/2ページ



「‥‥‥」



白石に呼ばれ、何やら話をする名字を見る。

あいつは他の女子みたいに媚びたりとか‥‥そういうことせぇへんからか、とにかく好かれる。



「ユウジー」


「な‥何やその笑顔」


「お前の大好きな名字が白石と話しとるけど?ええの?」


「何やねん!その言い方っ!!ちゅーか、名字に聞こえたらどないすんねん‥!」



にやにやと笑う謙也に悪態をつきつつも、名字にこの会話が聞こえてないかとチラチラ見た。

良かった、気付いてへんみたいで。



「まあアレや。名字は厳しい所も有るけど、的確な厳しさやんか」


「‥‥ああ」


「やけど優しい時は優しいやろ?あのアメとムチが堪らん!っちゅー話や」


「はあ?!お前、手出そうとしとるんか?!絶対許さんぞ!」


「はっはっはー」



ただでさえ白石が名字を好いてるみたいで厄介なのに。謙也までマジになったらどないせえ言うねん。


あ、小春も何や行きよったし!



「先輩ら会話丸聞こえっすわ」


「ま、まじか?アカン‥絶対名字に聞かれた!」


「さあ‥どうでしょうね」



財前ホンマ何やねん。
そんな言い方されると余計不安になるやんかあ。



「ユウジ、」


「名字‥‥」



呼ばれた。
何やようわからんけど呼ばれた。



「ほら先輩、行ってこい」


「頑張れやー!」


「うっせぇ!!」



冷やし立てる二人を無視し、白石のそばにいる名字へ駆け寄った。



「何?」


「ちょっと話が有ってさ。」


「‥俺らは行った方がええか?」


「ああ、すまん。頼む」



ああいう風に白石をどっかにやれる強さを持ってるのって名字ぐらいやろなあ。凄いわ。



「(あ、小春引きずりよったアイツ。公開死刑や)」


「ユウジ、」


「あ、おう。何や?」


「ダブルスのことなんだが――、」



そう言って相談された内容に俺は事細かに説明してのけた。

そもそも名字が何か相談するなんて珍しい。



「へえ、そうなのか。助かったよ」


「ああ‥‥気にすんな」


「いや。‥‥さすがだ、有難う」



少しはにかむように笑うと、名字はすぐにいつもの顔に戻してしまった。



「(今の‥な、に?)」



あんな笑顔めったに見ないから、心臓がやばいぐらいドキドキして止まらない。

もう一度見てみたいなんて、




我が儘

(いつもの表情に戻った君は、)
(あの笑顔が特別なのだと)
(俺にはそう受け取れた)




fin.


→あとがき



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ