short
□背負っています
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「‥‥‥」
遂に、俺のシングルスが始まろうとしている。この三年間、本当に色々なことがあった。皆には感謝してる。
「白石、行こう」
「ああ」
マネージャーの名字に笑って頷いた。青学との試合は接戦を強いられるだろう。不安で、本当は潰れてしまいそうだった。
「なあ名字、」
「どうしたの?」
「俺がこの試合、勝ったらデート付き合うてな」
「‥‥ふふ、何馬鹿なこと言ってんの」
「本気やで」
「‥‥うん、約束よ」
おかしそうに笑う名字に、俺も笑顔を向けた。俺がこれから取りに行く勝利は、名字の為でもありチームメイトの為でもあり、そして俺自身の為でもある。
「白石っ」
「何?」
「‥約束よ。勝って」
名字の言葉に俺は頷き、コートへと踏み込んだ。皆不安なんだ。俺だけじゃない。追い詰めるな、周りを見ろ。
「よろしく」
「よろしゅう」
対戦相手の不二くんと握手を交わし、俺はレシーブ位置へといた。
「‥‥‥」
この、左胸にある四天宝寺の紋章には、期待と夢と色んなものがあるのだ。俺はそれを今まで背負ってきた。大変だったこともあったし、沢山嫌な思いもした。
それでも、テニスが大好きで。今は続けてよかったって思うてる。俺を選んでくれた監督、皆、そして名字に改めて感謝せなアカンな。
「白石ぃ!頑張れやあ!」
一際大きく聞こえた謙也の声に応えるように、俺は左手を高く高く掲げた。
『約束よ』
先程の名字の声が頭を過ぎる。あの時の名字の顔が忘れられない。
不安そうで、
泣きそうで、
「絶対‥‥絶対勝つからな」
後ろにいる名字を見つめ、俺は小さく呟く。左手で拳を作り、名字に対して掲げる。
名字は相変わらず泣きそうな顔で、右手拳を掲げ、俺の大好きな笑顔を向けてくれた。
背負っています
(期待もなにもかも)
(潰されそうになったら思い出す)
(君との、約束)
fin.
→あとがき