short
□君はチャンピオンだった
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走り去り行く、小さくなる背中を必死で追いかける。
待ってくれ、待ってくれ、何で君はそんなに遠くに行こうとするんだ。
「待ちぃや!」
熱い腕を掴み、名字の肩を掴み寄せる。ああ‥‥いつからこんなに細くなった?弱なった?
「な、に?」
「何ちゃうやろ‥‥どこ行くねん」
「戻るの」
「はぁ?」
「元の場所に戻るの」
その言葉の意味がわからず、名字の熱い腕を離す。
今熱いのは俺なのか、お前なのか、
「財前にはわからないよ」
「私はもう疲れたの」
「さようなら」
「またいつか会えたら会おうね」
そんな言葉が欲しい訳ちゃうねん。
俺は名字に待って欲しい。
行かないで、何でそんなに急ぐのか。
「俺は名字が好きや。待ちぃ、何で行くん?」
「私も財前好きだよ。でもね、これはもう仕方がないんだ」
久しぶりに見た君の笑顔はやけに弱々しかった。強かった君は何処に行った?昔みたいな君は何処に行ったら会えるのか。もう会えへんのか。
「名字、名字、」
再び小さくなり行く背中を必死で追いかける。
――『アイロニー』と言うのはこういう事なんか?好きなのにもう君は届かなくてああ何て皮肉なんだろうか。
「待ってくれ、」
俺は小さくなり行く名字の背中を追いかけるべく走りに走った。走ってるはずなのに、俺と名字の距離はどんど遠ざかる。
そのうちに俺の足は動かなくなり、完全にその場で止まった。
何で人は無力なんや、何も出来へんのや。
何故限界が有るんか?
「名字っ‥‥」
名前を呼んだのが聞こえたのか、振り返った彼女の笑顔は久しぶりに見た。強い笑顔だった。
君はチャンピオンだった
(それは過去の栄光)
(あの頃の君はもう)
(この世にいない)
fin.
→あとがき