short

□アイロニー
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俺は名前の為だったら何でも出来る。誓える。契れる。この世界で一番大切だから。



「なあ謙也、お前の彼女‥」



白石が言った言葉を全て否定した。
名前はそんな事やる奴ちゃう。



「‥あんな、名前‥‥話あんねんけど‥」


「何?謙也」



ほら、今やって俺の為に笑ってくれた。名前と俺は別れるはずなんかない。名字は浮気なんかせぇへん、



「先に言うとくけど‥俺は名前、好きやで。名前は俺の事好きか?」


「好きだよ、謙也好き」


「あ‥良かった‥」



いつもの様にニコニコと笑ってくれる名前に酷く安心し、何故だか泣きそうになる。



「謙也、話って何?」


「あ、や‥‥白石がな。名前に似た奴が財前とこの前キスしとったって‥言うててな」


「疑った?」


「まさか!俺は名前信じとる」


「そっか、」



それ以上何も言わない名前にまた安心した。良かった、ほら、名前は俺を裏切ったりなんかせぇへんよ。



「じゃあ別れよっか」


「え、」



上気していた気持ちが一気に萎んだ。
と、言うより名前の言っている意味がわからない。



「な、何でや?」


「だって別にもういいじゃない。私は財前とキスしたんだから」


「ちょお待て!名前は俺が好きちゃうんか?!」


「好きだよ?でも、嫌いなの」



意味がわからなくて気付いたら涙が出とった。一体何故別れなければいけないのか。俺より財前が大切なのか。



「ごめんね謙也、」



何で謝るくせに笑うのか。
何で笑ってるのに悲しそうなのか。
どうして俺に何も言ってくれないのか。



「名前、俺は名前がっ‥」



死んでも好きだ、と。一緒にいると言ったじゃないか。違うのか、あれは嘘だったのか。



「さようなら」



耳元で囁かれた声は、俺の願いに反していつまでも耳の底でこだました。


――さようなら、さようなら、


消えて無くなれ、存在を消せ。
俺はもう俺じゃなくなったんだ。
俺は一体、誰だ。何の為に生きているんだ。名前を奪ったのは誰だ?財前なのか?じゃあ何故?



「名前っ‥」



何処で何を間違えたのか見当がつかなかった。

あの日あの時の約束は、多分約束した瞬間に永遠に無となったんだと思う。




アイロニー

(好きなのに、嫌いで)
(欲しいのに、邪魔で)
(ブチ壊したかったアイロニー)




fin.


→あとがき



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