SS-Novel
□たとえ倒れても。
1ページ/1ページ
「あぁぁぁぁ…。」
玄関口で妙な声を出し、しゃがみ込む。
気まずい、なんて生易しいもんじゃない。
よりにもよってな人と、"酔ってヤっちゃった"、とか。
――洒落にもならないし。
奈落の底に落とされた様な気分で"あの人"の部屋を出て、いつまでもしゃがみ込んでる暇はない、と立ち上がった。
エントランスを出ると、"お前は馬鹿か"、と、言われていると勘違いできる程に犬に吠えられて。
近づいてくる電車の警報音には、"バーカ"、と、言われている様な気がして。
――しかも、だ。
こっちに来てから誰にも見せていない"弱み"まで晒す結果となってしまったことが。
私を更にどん底まで私を落としていった。
私の暗い気分とは逆に、快晴の空。
いつもこうだ。泣きたい時に限って絶対に雨は降ってくれない。
貴方に"さよなら"を告げた時も。
雨が降ってくれていたら、素直に泣けていたかもしれない。
雨のせいにして涙を流すことができたかもしれないのに。
だけど、どこまでも素直じゃない私は。
『もう、好きじゃない。』
なんて、嘘もいいとこな言葉を吐いた。
――馬鹿、みたいだ――。
本当は、"あの人"を一目見た時。司狼の面影がチラついて泣きそうになった。
――思い出しちゃったじゃない…。
「さ〜きッ!」
「…おはよ。」
「暗ッ!何その顔!」
仲のいい同僚にそっけなく、別に、と答えて制服に袖を通す。冷たい裏生地に震える身体。
――寒い、な。
この制服も。寧ろ、この状況が。
仕事前に髪を整え、鏡に写った自分を見ると、酷い顔をしていた。
こんな顔で仕事はできない、と両手で頬をペチッと叩いて気合いを入れ直して。
――よし!
入れ換えた気分でいつもの猫かぶりな笑顔を張り付け、事務所の扉を開けた。
「おはようございます!」
空元気丸出しの挨拶をし、配置が書かれた紙を見る。
頑張ろう、と、気合いを入れたのも束の間。
私の顔に、苦笑いが貼り着いてとれなくなるんじゃないか、と、思える上司の言葉が耳に飛び込んできたのだった。
「お、野村。お前今日、小部屋な。」
その配置は、と、目を再び紙に落とす。
愕然とする言葉、指示、命令――。
理由を問う気力も失せ、ただ愕然としていると。
更に私を石像の様に固める声が耳元で、私の鼓膜を震わせた――。
「そういうことだ。ヨロシクな?――早紀――。」
【END】