シリーズNovel
□昼下がりの幸福。
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「起きろ、佳治」
覚えのない声を聞いた…気がした。
いや、違う。覚えはある。
ただ、此処で…この場所で聞くはずの無い声、と言った方が正しい。
「無視か?スルーか?起きてるのは分かってるぞ」
気づいていて無視しているのだから、ここは黙って出ていってほしい。
というか何故ここに?いや、この際理由はどうでもいい。
「不法侵入だ、出ていけ」
嫌々ベッドから重い身体を起こしつつ、目の前にある…近過ぎる顔を睨みあげた。
もう、どうして此処にいるのか聞くことすらウザったい。
「相変わらず部屋にいる時はカギ掛けないのな、お前。寮じゃねぇんだぞ?不用心極まりない」
「うるせぇよ…何の用だよ勘弁しろ寝させろ出てけ、おやすみ」
安眠妨害され、もう一度眠りにつきたいと布団を頭に被ろうとした。が、できなかった。
「気絶ならさせてやるぞ?どうだ?」
指をポキポキと鳴らした後、利き腕を大きく振りかぶったソイツを見て背筋が凍った。
やる。…コイツはやると言ったら必ずやる。
寝起きにコイツのラリアットをまともに喰らったら、いくら俺でも正常に意識を保っていられない。
ある意味違う眠りにつくことになる。
「それは謹んでお断りさせていただきます」
負けたわけではないが激しい敗北感を味わって、何とも寝覚めの悪い朝…昼になってしまった。
身体能力ではコイツに勝てる気がしない&あまり眠れていないのが一番の理由だろう。
俺だって弱いわけではない。寧ろ一般的には強い自信だってある。
だけど、コイツには勝てない。勝てたためしが無い。張り合うことすらバカバカしく感じてしまうが。
溜め息しか出なかった。嗚呼さらば――俺の平和な休日よ。