シリーズNovel

昼下がりの幸福。
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「…で?そろそろお前が此処にいる理由を言ったらどうだ。俺の安眠を妨害してくれたんだ。それなりの理由があってのことなんだろうな?」

「もちろんだ。あぁ、その前に…朝メシできてるぞ、食うだろ?」


――…は?


やっと脳と身体が行動態勢に入った俺に、またも意味不明なソイツの一言が耳に飛び込んできた。
覚醒しきっていない俺の頭を混乱させるには十分な、一言が。


「早く顔洗ってこいよ、先に食っちまうぞ?」


早くしろよと言いたげに俺を見たソイツは、いかにも重そうな重量感たっぷりの腰を上げ、ダイニングへと歩いて行った。

ポカンと間抜けに口を開けたままの俺を置き去りにして。





誰かが俺の部屋に入ってきて、何かしている気配は感じていた。
それが誰なのかすぐに分かってしまった俺は、ツッ込む気にもなれず放置していた。

見事なまでに現実逃避していたわけだ。「そんなこと、あるわけがない」と。

“気配で誰が部屋に入ってきたかわかる”なんて余計な特技を身につけてしまったなぁ…と感慨深く考えていたほどである。…馬鹿としか言いようがない。

しかし現にソイツは寝室に入ってきて、脅しまがいな言葉をかけて俺を無理矢理起こして。

そこで俺はソイツが現実に此処にいて、平和な休日を得ることを諦めざるを得なくなった訳だが――…ここまではいい。いや、全くもってよくは無いが、想定の範囲内だったと言ってやってもいい。


だけど、まさか。


まさか、なぁ?料理をしているなんて夢にも思わない。
そう決めつけていた俺は――…間違ってなんかいないよな?


俺の家なんて来ても出来ることは限られている。
撮りためてあるDVDでも鑑賞するかマンガを読むか、その程度のことしかできないということは、この部屋の主である俺自身がが一番よく知っている。

だけど、まさか、こんな熊みたいな大男が朝食をつくるために台所に立っていた、なんて。


――悪夢としか思えない光景だ!絶対見たくねぇ!!


だから信じたくなかったのだ。

フラフラと覚束ない足取りで寝室から出て、ダイニングの扉を開けた…俺の目の前にある光景を。

今ソイツの目の前にあるのは…テーブル。10年以上使ってきた俺愛用のテーブル。


冬にはコタツに早変わりする何とも優れモノの俺のテーブルから、これまた何とも美味しそうな味噌汁と卵焼きの匂いがしているなんて――信じられないというよりは信じたくない。なぁ、そう思うだろう!?






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