短編Novel
□...Pray...
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目が覚めると、横には貴方のやたら綺麗な寝顔があって。
――寝顔くらい…少し崩れててもよさそうなものなのに。
よだれを垂らしてるとか。
ニヤけてるとか。
色素の薄い髪に少し茶色の瞳。キメの細かい白い肌。
女の私が嫉妬してしまう程、綺麗。
だけどそこにはちゃんと男らしさもあって。
着痩せするタイプだから見た目には分からないけれど、硬い筋肉がついていることが私には判る。
――モテないはずがないよね…。
寝ているだけなのに、フェロモンだだ漏れの彼、私の…恋人。
誰より愛しい、私に必要な人。
「…大好き。」
面と向かって本音では言えない言葉を耳元で囁いてみた。
こんなに簡単な、たった4文字の言葉。
だけど、言えない。
何故かは分からないけれど、言えない。
「ッん――、」
聞こえてはいないだろうに。少し呻いて身じろぐ貴方。
寝返りをうとうとしたのか、私を腕に巻き込んで、仰向けになるものだから。
私は、彼の規則正しい鼓動を聴くような体勢で、抱きしめられることになった。
トクン、トクンと穏やかな胸の音が私の鼓膜を揺らす。
当たり前だけど、生きていることを証明する、その、音。
職業柄、この音が止まった人を何人も見てきたから。
一定のリズムで拍動するその音を聴くとホッとしてしまう。
――出会えてよかった。
そんな、今更な気持ちを腕に込めて、頭を肩に預けて胸の上で。
私は再び心地いいまどろみと共に、夢の中に堕ちていった――。
*********
少しだけ息苦しさを感じ目を覚ましたら、ちょうど俺の胸の上で、彼女が気持ちよさそうに寝息をたてていた。
――わざと、か?
そんなに密着して抱き着いて。
俺の理性を試してんのか!、と、言ってやりたい。
艶のある癖のない黒髪が目下にあって、そっと触れる。
俺とは違い、生粋の日本人と言える容姿。端正な顔立ち。
白い肌が黒目の深みを際立たせ、その意志の強さを感じさせる。
そして、その目で俺を見上げて自覚無しに俺を煽るもんだから。
――…よく頑張ってるよな、俺の理性…。
サラサラの髪に指を絡めながら頭を撫でると、温もりが指に直に伝わってきて。
どうしようもない程に、胸に愛しさが込み上げてきた。
「君が、愛しい――。」
俺の胸の上で拘束するようにきつく抱きしめて、そう、呟く。
今までに感じたことがない、種類が違うと言える"愛しく思う気持ち"。
こんな風に想う心がまだ俺に残っていたなんて。
――出会えて、よかったよ…。
偶然か必然か。
気まぐれな神様が運命の糸を手繰り寄せて、彼女と俺を引き合わせた。
そんなお伽話のような現実を、腕の中、胸の上に感じながら。
心から幸せと思える眠りに、君と、堕ちる――。
【END】