ファンアル
□恋と終焉にまつわる考察/雨ノ章
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*いつか晴れた日に(U)
じゃあ、なんて。
きみに背を向けたのは、どうしてだっけ。
こんな時は。
本当はきっと、きみみたいな繊細な子は。
抱き締めてあげなくっちゃいけない。
……けど。
それは。
このボクに、きみの気持ちを縛り付ける行為だ。
ボクをすきでいて。
ボクの傍に居て。
……そんなふうには。
とても。
今は、言える自信がない。
図書館を出たら、雨が降り出していた。
あ。
……傘。
忘れてきちゃったな。
きみがくれた傘。
きみの眸の色みたいな、うつくしい藍のいろの。
今更、取りにも戻れないし。
いいや。
このまま歩けば。
もともと、雨に濡れるのはきらいじゃない。
傘なんて、きみが怒るから持つんだ。
きみが。
ボクが濡れるのを心配して。
怒るから。
曲がりくねった路地は、ちょっと油断したら、自分の居る場所がわからなくなる。
石畳の数を数えるみたいに、下ばかりを見て。
雨粒が乾いた石の表面を、塗り替えてゆく様を見守った。
白に程近い鳥の子色が、深みを増した黄つるばみへ。
道はおおきくカーヴして。
アップダウンを繰り返し。
まるで変幻自在の迷宮のようだ。
だめだなぁ。
ここはいっそ、ぐるぐる迷ってしまえば心地がいいのに。
ボクの土地勘と経験が。
きっちりと景色を地図へと置き換えてしまう。
たとえば。
あの図書館が、敵の前線基地だったとしたら。
この路地の複雑な地形は、かなり面白いかたちで利用できる。
……いけない。
こういうのが、きみを苛立たせるのにね。
髪に。
肩に。
ぽつぽつと雨のしずく。
ボクは足を速めて。
どんどん路地を。
奥へ奥へと進んだ。
そうそう、この角を曲がると、廃工場が取り残されていてね。
川辺の空き地と。
午後からしか人の来ないグラウンド。
……誰も居ないところであいたいひと。
なんて。
そんな言い方をしたら、きみは妬いてくれるかなぁ?
残念ながら、そんな色っぽいお話じゃあ、ないんだけど。
「クロスガードの人狩りかい」
はいいろの壁を背に。
足を止めて振り返る。
鬼気というのはね。
そんな。
むき出しにして歩くものじゃあ、ないよ。
ボクの前に。
明らかに傭兵上がりの男が。
ひとり。
ふたり。
さんにん。
よにん。
……ごにん。
……っと、おしまいじゃないのか。
ろくにん。
しちにん。
あーあ。
随分多いんだなぁ。
面倒だな。
皆殺しにできるかな。
魔力が。
……不死のいのちを捨てたら、がくんと減っちゃってね。
今のボクには、あの頃のような闘い方はできない。
雨が強くなった。
視界が……白くけぶる。
兵法の基礎として。
悪天候は利用しなくちゃ……ね?
けど。
逃げ回って殺しまくって、この街じゅうで暴れたりしたら。
きみのとこには、居られなくなっちゃうね。
それはいやだなぁ。
「訊きたいことがある。我々と来て頂きたい」
それは知ってるよ。
キミたち、何処で出会っても、皆同じこと言うから。
傲慢で、有無を言わせない。
勝者の驕りってやつかな?
ほら。
ひとは醜いでしょ?
どうだろうね、アルヴィスくん。
「やだよ、誰に向かって口きいてるの」
「貴方に断る権利はない」
「権利?あははは!ボクに誰が命令できるの。ボクは、」
雨音に消えないように。
キミたち皆に聞こえるように。
まるで誇るみたいに。
高らかに名乗ってあげる。
「……ボクは、チェスの司令塔・ファントムだよ」
ごめんね、アルヴィスくん。
こんなボクでほんとうにごめん。
先手必勝、動くが勝ちさ。
……闘いが。
始まる。
「甘」がテーマなんですよ〜一応!
しかしすでに、そんなんかけらも!!!!
なんか二人、別行動やし?!
ファントムの一人称って、実はとても書くのがすきですvvv