ファンアル

□恋と終焉にまつわる考察/午睡ノ章
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雨を浴びてなお、白いシャツを汚す血のあか。
切り裂かれた布地の合間から覗く、普段は隠れたままの柔肌。
伏せた目の縁を飾る、濃い睫毛に。
細かい水の雫が絡んで、きらきらと。
磨き抜かれた鉱石に似て。
美貌を、彩る。

ぼろぼろのファントムに。
俺は。
そんな場合でもないのに、息を呑む程……壮絶な色気を感じた。

血は出てるし。
痣は作っているし。
指の先など、つめたくて震えているのに。
身体そのものは、熱い。
足に力が入らないらしくて。
抱えたら、くったりとこちらに凭れ掛かってきた。

「……捜した…、」

俺は。
雨音に紛れて、かき消されそうな声で。
お前の耳元に。
それだけ囁く。

それだけ。
ようやく。
告げることが出来た。

それきり。
言葉を失ったみたいに、俺達は。
ふたりで豪雨に撃たれ。
撃たれて。
……濡れて。

よたよたと不安な足取りで。
灰色の石畳を、ゆっくりと踏み締めると。
どうにか。
歩き出した。

労るべきなのか。
無事を喜ぶべきなのか。
無茶を叱るべきか。

全くわからなくて。
結局。
無愛想な物言いしか出来なかったな。

「アルヴィス君、……あいたかった……」
ずっときみを呼んでたんだよ、と。
お前はぽつぽつと。
しかし事もなげに、言ってのける。

ろくに声も出せない状態の癖に。
なんでそんなに……素直なんだ。

俺はどうすればいい?

喜ぶ。
照れる。
礼を言う。
同意する。
……笑う?

どれもしっくり来ない気がして。
ああ、と。
感情を殺した声で、みじかく応えた。

冷たいのか、俺は?
けれど。
お前がすこし、笑った気がして。
これで良かったのか、とも思う。

来る時には駆けてきた道程は、ゆっくりゆっくり進めばより長いはずなのに。
ぐるぐると考え事をしていたら、あっという間だった。

お前を、風呂に放り込んで。
けど。

……一人で風呂に入れるような、具合でもないだろう。
一緒に入るべき、なのか?

そうだ。
俺だって濡れているし、纏めて済ます方が効率もいいだろう。
いや。
だが。
……何と言う?

俺が洗ってやる。
一緒に入ろう。
入らないか。
入ってやってもいい。

…………………………駄目だ!!
一度喜ばせてしまったら。
延々と、あの時のきみは優しくてかわいかった、だのと。
言われ続けるに違いない。
俺は玄関の板敷きに、ファントムの身体を降ろすと。
とりあえずバスタオルを放ってみた。

「さっさと拭け。熱がまた上がる」

ぅん、ありがとう、と。
小さく呟いたきり、奴は動こうとしない。
「こんなところで寝るなよ」

……大丈夫、か?

「……少し眠れば回復するから……」

待て。
それは。
不死だった頃の、話じゃないのか。

「おい!」

乾いたタオルを被ったまま、ファントムは寝息を立て始めた。

……仕方ない。
からかわれたら本気で殴る。
そう、決意して。

俺は風呂の支度を始めた。



ファントムがものを言えるような状態ではないので。
ちょっとリズムが狂うけど、二日続けて、語り手はアルにやって貰いました。
久々にラブコメっぽくなったかな?

ファントムが雨のなかで「寒い〜」と言っていた回は。
へにゅは冷房のききすぎたスタバさんで書いていて、とても寒く〜;
ファントムがくらっと倒れる回では、へにゅも貧血でくらくらしていました。
今日は眠気に耐えられず、一回寝て。
起きてから仕上げました。

……おっかしーなー。
一応、最後まで流れを決めてから、書いてんねんけどなぁ^^;

あ。
きのうまでの章題「いつか晴れた日に」は山下達郎さんの曲。
「生きることは悲鳴だね」という詞が。
ファントムであって。
アルヴィスでもあると思って!!!

成人指定vvお風呂ラブ番外編は、ファンアルtopから「微熱抱擁」へどうぞvvv
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