ファンアル

□恋と終焉にまつわる考察/真夏ノ章
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夜が明けたら、というのを引き延ばして。
お前の熱が引くまで、ずっとずっと傍に居て。
普段は、照れてしまうようなことだって……して。
まるで。
普通の恋人同士みたいに。

夜も昼もなく、お前はほとんど眠っていたけれど。
同じ部屋で過ごして。
ふたりぶんの食事を用意して。
感染すから駄目、って言われて、仕方なく。
寝台のとなりにソファを引っ張って行って、隣り合わせで俺も眠った。

まるで。
何処にでもいる、普通の恋人同士のように。

そうやって。
ばたばたと日常を過ごしていれば。
別れ話など。
……なかったことになると思った。

お前は結構、どうしようもない男だからな。
曖昧で。
うやむやに。
辛い話など流してしまえば。
二人とも、忘れたふりで済むのではないかと。

そんな甘い期待をした俺は、やっぱり子供だったんだろうか。

三日目の朝。
目覚めたら。
お前は何処にも居なくなっていた。

……最初から、そういう話だったじゃないか。
諦めて。
大人ぶって。
痛みなど知らぬ顔を、作ってみたところで。

どう取り繕ったって、切り込まれたような傷口を。
血を流し続ける生傷を。
ごまかしようもなく。

俺は。
涙も流さずに。
ただ途方に暮れた。

大して広くもない、集合住宅の一角である。
捜すにしたって、場所は限られていて。

風呂場。
キッチン。
バルコニィ。
リビングルームと、扉一枚で隔てられた俺の私室。

念のため、クローゼットを皆開けて。
下駄箱まで開けて。
それでも。

お前は何処にも居なかった。

……と。
そうだ。

あんまりにもここで一緒に、当たり前に過ごして。
同じ寝台で眠って。
同じ食事を摂って。
それで、忘れていたけれど。

そういえば、お前は向かいの住人で。
俺と同居しているわけでは、ないのだったな。

笑いがこみ上げて来た。
滅多に、自分の部屋に帰らなかったお前でも。
流石に三日眠り倒せば、足りないものも出てくるだろう。

着替えだって。
食器だって。
歯ブラシだって。
靴だって。
読みかけの本だって。
武器だって。

何だって。
こちらに持ち込んでいるように見えた、お前だったけれど。
たまには、な。

すぐに戻ってくる。
ただいま、なんて口走りながら。
今晩はがつんと肉料理にしようよ、なんて言いながら。
笑って。

……それから。
俺を抱き寄せて。
玄関の扉が、閉まりきっていないというのに。
キスをして。
そのまま床に、組み敷かれたりするんだ。

お前は。
ほんとうに困った奴だから。

待っていればいい。
この扉が開くのを。
お前が好きな、馬鹿みたいに濃厚な、チーズのシチューを作っておいてやろう。

俺は。
そうだ。
……待っていれば。

扉を開けて。
向かい側を確認する勇気は。
……情けないけれど、なかった。

そういえば。
必要ない、なんて邪険にしたけれど。
お前が家の合鍵を寄越した時は、少し嬉しかったな。

鍵は、持っているんだ。
けど。

ここで待っていていいか。
お前が俺の傍を選んで。
戻ってくるのを。

……待っていれば。
ここで。

そうしたらきっと。

……きっと。


裏を懸命にやりすぎて。
表をおろそかにしないように!!
ちゃんと進めます。
けど。
これもう26ページ目?!
こんなん、「短編」のコーナーに入れとくて^^;
長丁場にお付き合い、ありがとうございます♪

(↑当初、そういうことになっていたので;
四章に分けて編集しなおしましたvv)
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