ファンアル

□プラスティックソウル
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プラスティックソウル一章*SIDE_ph


「きみが欲しい」
とか。
「きみが好き」
とか。
「きみを、愛してる」
とか。

何度口にしたかな。
幾人に囁いたか。
千回。千人。
そのくらいかな。
覚えてないや。

嘘ばかり、と、言うならそれでもいいよ。

でも、
今この一瞬だけは、
ボクは。
本当に、目の前の君だけを見てるんだよ。

それじゃあ、いけないのかな?

******

空間を切り取る事くらい容易い。
きみひとりだけを残して。
この世の全て。
何もない場所へ。
ディメンションARMを発動させる。

繊細な彫刻を施した、ぎんいろの鳥籠に閉じ込めるみたいに。
うつくしい檻の中へきみを。

――きみだけ。

「久しぶりだねえ、元気だったかい?」
警戒心を顕にした表情で、こちらを睨みつける眸の蒼が好き。
ふるい地層から不意に現れる、鉱石のようだ。

「――ファントム!」

嫌悪に硬く尖る、きみの声が好き。
理想的な少年に成長したね。
気高く。
孤独で。
ひたむきで。
まっすぐで。
誇りを全てに優先させる。

そんな、理想の。
手折る為に咲く華みたいな。

……虐めたくなる。

ねえ。
きみには、こんな気持ちはわからないのかな。
アルヴィス君。

「こんばんは。寝ていたかな、夜遅くにごめんね」
にこ、と微笑みかけると、少年は目尻に怒りを滲ませて、殊更にひくく造った声で言った。
「何をした。皆は、どうしたんだ!」
「さあ。どうしたかな。きみ次第、ってところだよ」

ボク達の暮らす城とは比較にもならない、粗末な宿の一室だった。
彼ひとりを、そこから急ごしらえの異空間へと連れ去る。
そんなARMを使った。

宿の土壁、簡素な寝台、黒ずんだ床板。
そういったものは変わらずそこに在る。
ただ、全てが雪のような青白いひかりを受けて、作り物じみて見えた。
元の空間に繋ぐ事は、ここを作り出したボクにしか出来ない。
きみは賢いから、そんな事はわかっているだろうね。

「俺を殺すのか」
「まさか。そんな勿体無いことはしないよ」
手首を捕えて引く。
胸に倒れ込んで来る身体を抱きとめて、くっきりと刺青の刻まれた左手の甲に唇を当てた。
「もうすぐ呪詛が成就する。きみが、ボクだけのものになる。……死なせないよ、」

ちゅ、と音をたてて膚を吸っても、きみは振り払わないんだね。
本当に、賢い。
抵抗しても無駄なことを、ちゃんとわきまえている。
だったら。
ボクは君の嫌がることを、どんどん続けるだけだけどね。

諦めたら、つけ入れられるんだよ。
きみの賢さもここらへんが限界なのかな?

「……どうするつもりだ」
氷の刃のような視線が、きりり、とこちらを睨みつける。
それが却って劣情を煽るなんて、きっと想像もつかないんだろう。
ボクは言葉を選んだ。
罠であり、鎖にもなる。

武器として。

「きみを犯しに来たんだ。抱かせて、アルヴィス君」

言って、唇の端で嗤う。
目の前で、冷静を装う表情の下に、苛烈な怒りがはしった。
手に取るようにわかるよ。
本当に、全部予想の通り。
「ふざけるな」
ぱし、とボクの手を振り払う。
……それすらも、読み通りだね。

ボクは、今からきみを壊しにかかる。

「本気だよ。狂わせてあげる、」

無防備な耳元でひくく囁くと、腕の中できみの身体が強張った。
戦いの最中に見せる動きが嘘のように、隙だらけで。
難なく、唇を重ねる。
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