一次小説

□御霊の欠片
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虫の声がより一層と響く夜。どこか寂しげな空っ風も、秋の深まりを告げていた。
時は人々が寝静まる頃であったが、一つの屋敷から漏れる灯りは未だ煌々としている。
その一室では、十数名の男達が粛々と議論を続けていた。

「ーーの疑いによって捕縛。座敷牢に連行。以上より、五名を座敷牢、六名を執行処分」
「執行済の者達の名表を。保管所に持って行こう」
「では次に、明日の警邏について−−」

男達が議論を進めていく中、部屋の中央奥に鎮座する者が一人。
長い髪を胸の辺りで一つに束ねている。
その眉目は麗しく整っており、周りの筋骨逞しい男達からは酷く浮いていた。
しかし、刃の様に冷たく鋭い視線で場を見据えている。

「では、以上で異論はないな。予定通り、定刻にて各班の警邏を……」
「待て」
中央奥の者が口を開いた。
男達はびしりと姿勢をより整え、声の方向へと一斉に体を向ける。
「五刑殿。不備な点の御指摘でしょうか」
「いや。近頃は座敷牢への収監が多いが、何か情報はないのか」
「座敷牢の者達には色々と聞いておりますが……何せ、頑なに口を開かぬ者が多く」
中央奥に座していたのは、男達に五刑と呼ばれる、その頭目と思われる者。
五刑は傍らに置いていた刀を手に取ると、徐に立ち上がった。

「私は座敷牢に行く。明日の警
邏は先程の通りに行え。以上だ」
「お待ち下さい、お一人では危のうございます。私が供に参りましょう」
「供はいらん。お前達は寝ろ」
五刑はそう告げると、単身で座敷牢へと向かった。

取り残された男達は暫しの後、それぞれに口を開く。
「なあ……前々から思っていたのだが、今代の五刑殿は女子なのだろうか?」
「さあな。どうだろうと、俺は五刑殿の元で義を貫ければ良い」
「実はな。一度五刑殿の寝顔を拝見したのだが……正に女子と見紛うたぞ」
「否。五刑殿は男だぞ。以前、某を叩いて下されと申したらば、部屋の端から端まで蹴り飛ばされたわ」
「阿呆め、お前は何をしておるのだ」
「しかし声もまるで女子の様だよな。結局、どちらなのだ」

男達がふむと頭を捻らすと、突如として襖が真っ二つに断ち切られた。
その先には、抜き身の刀を手にした五刑が表情の色無く立っている。

「斬られたいか。 小僧共」
ひいと顔面を引き攣らせる、屈強な男達。
さながら蜘蛛の子を散らす様に、男達は解散した。
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