一次小説

□裂御霊
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 降り頻る雨の中、刃が彼女の体を引き裂かんとした刹那。五刑はぴたりと動きを止めた。
 その閃光の如く短い時間の最中、五刑の脳裏には様々な、彼女の表情が浮かんでいた。
 幼馴染みでもある彼女の、無垢な笑顔。
 人目憚らず泣きじゃくる、幼子の様な姿。

 そして五刑の内に交錯する、善と規則により同族を殺す事の迷い、葛藤。
 ──しかし今、彼女を逃せば、己に他者を罰する資格などない筈だ。
 覚悟を決め、今一度、凛と視線を定めた五刑の顔に付着する血飛沫。

 五刑は暫し、唖然としていた。
 この刀は、己が振るったものではなかったからだ。
 彼女はその華奢な手で五刑の刀を掴み、勢いのまま、己の体を切り裂いていた。
 深々と身体を裂いた傷は、即死するには至らないが、間もなく絶命させるには容易なもの。

 刀を放り、力無く崩れ落ちる体を抱きかかえ、五刑が彼女の名を叫ぶ。
 彼女が最期に、縋るかの様に絞り出した掠れた声も。雨音は全て、彼等の声を覆い隠してしまった。

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