ギアス
□紫陽花のあとには
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「あつい……」
肌にからみつくこの湿気にも慣れたはずだった。
もう何年もこの国で暮らしているのだ、だけれど毎年おもう。
梅雨も夏もなくなってしまえばいいのに、と。
紫陽花のあとには
「ルルーシュ、だいじょうぶ?」
「ああ…」
心なしか冷たい感じのする机にぐったりと身をまかせるルルーシュにスザクは買ってきたジュースを
ルルーシュの頬の近くへとおいた。
悪いな、そうルルーシュは力なく答えた。その声の弱弱しさに聞いている方が心配になってくる。
日に日に強くなっていく気温と比例して、日に日に衰えていくルルーシュの気力。
それは躰のほうにも現れはじめていて、その白い腕の細さにスザクは眉をひそめた。
「ルルーシュ、ちゃんと食べてる?」
「……………ああ、」
「間があったよ、間が」
「うるさい……暇だったらあおげ…っ」
はいはいと、軽く返事をして自分の机の中から下敷きをとりだしてそれであおぐ。
そよそよとルルーシュの柔らかい髪の毛がゆれる。その心地よい風にルルーシュは気持ちよさそうに目を細めた。
長い睫が、白い頬に影をつくる。
「あと一日の我慢だよ」
「……おまえは元気だな」
「だって僕、暑いのきらいじゃないし」
「………この体力、馬鹿……」
アッシュフォード学園の空調設備がとまってから早三日、ミレイのいいだした『夏祭り』も明日でおわりだ。
しかし今までオゾン層の破壊を手助けするかのごとく、がんがんと冷房をつけていた学校内での快適な生活に慣れていた
生徒達は、いきなり外の世界にだされた赤子のごとく暑さには免疫がない。加えて躰にねっとりとまとわりつく湿気。
言い出したミレイまでもが暑さにうなだれている。もしかしたら終わりが一日早まるかもしれない。
暑さに元気をなくすルルーシュをみるのはなんだか胸が痛むが、普段は着ない夏服の半そでシャツからのびる二の腕の細さとか白さとか、
開襟シャツからみえる鎖骨だとか、スザクをまどわせるその姿には不謹慎だが胸がたかなる。(ルルーシュには悪いけど)
いけないいけない、見つめていると変な気持ちになってくる。スザクは自分用に買ってきたスポーツドリンクをごくりと一気に飲み干した。
梅雨があければすぐそこに、夏が待っている。
>>End.