ギアス

□恋という文字の由来
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ああ、暑い。本当に暑い。
こんな真夏日に講習なんてやらなくていいと思う。
夏休みに学校にくることでさえ面倒くさいことこの上ないというのに、さらに追い討ちをかけるようにして
降り注ぐ太陽のめぐみ。
じりじりと自分の肌がやけていくのがわかる。
日焼け止めを塗っても焼かれていく自分の肌を恨めしく思いながら校内へと入る。
太陽の光から逃れられたことにほっと安堵して、教室へと向かう。
教室は冷暖房完備だ。
さすが私立、グッジョブと褒め称えたい。
結構はやめに来たせいもあって、まだ来ている生徒はいないようだ。
夏休みだということもあってしんとしている校舎。
いつもはさわがしいこの場所が静けさに包まれているのは、
どこかおかしな感じだった。

掲示板に張ってあったクラス分けをみて、自分が応用コースに入れていることに小さくガッツポーズつくった。
今日は数学だ。
すきかきらいかと聞かれたら、すきなほうかもしれない。
最後には答えがひとつになるところがすきだ。
何通りものやり方から、ふさわしいやり方をみつけて
ひとつひとつ解いていくのはたのしいとも思う。

応用コースの教室の扉を開こうとして伸ばした手を意識的にひっこめる。
男の人の話し声がきこえたからだ。自分が一番乗りだとおもっていたから驚いた。
扉をあけずに、それに設置されている小さな窓から中を覗き込むと、そこにはふたりの男子生徒がいた。

美貌の生徒会副会長と疑惑の編入生、なんとも入りづらいふたり組みだなーとおもった。
どちらかがリヴァル君だったら、もしくはあのふたりプラス、リヴァル君という感じだったらよかったんだ。
そしたら普通に入っていけたのに。

あたしはブリタニア人だけどイレヴンとかそういうのに偏見があるほうではないので、
疑惑の編入生がこわいとかそういうわけではない。むしろお高くとまった貴族令嬢とか対した事もしてないのに
自分がブリタニア人ということだけでふんぞり返ってるやつよりは、全然、むしろ比べ物にならないくらいいい人だとおもう。
だってこないだ風にとばされて、尚且つ木にひっかかってしまった大事なプリントをとってくれたし。
ひょいっと窓から木に飛び移って、軽々と枝と枝をわたりプリントをとり、帰りも同じくらいひょいひょいと戻ってきて
はい、と笑顔でプリントを手渡されたときはもう恋に落ちるんじゃないかっておもった。
まあ結果的には恋に落ちていないわけだけど。

美貌の副会長は実は何回か話したことがある。
特定の人としか話さない、交流を深めない、むしろ大事なのは妹だけですーな副会長と話したきっかけは、
車椅子の前輪が溝にひっかかって身動きをとれなくなっている妹さんを助けたことからだった。
中庭を通ったときに、どこからかヴーというモーター音がきこえるなっておもって聞こえる方向へといってみたら
電動車椅子に乗った中等部のおんなのこが困ったように眉をひそめて、それでも何度も何度も手元のボタンをおして自力で動こうとしている場面に出くわした。
これはいかん、とおもって駆け寄るとその子は驚いたように肩をびくりとはずませた。
溝にはまってしまったその車椅子の前輪に手をかけてぐっと押すと、きゃっという小さな声がきこえた。


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