ギアス

□この恋には遺書が必要だ
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どんなに泣いて絶望しても明日は必ず来るのだということを、
ルルーシュは窓からこぼれる朝日で改めて気づいた。
差し込む光が一睡もしていない、泣き腫らした眸には辛かった。
けれど包み込むような暖かなそれは幾分かルルーシュの心を慰めた。
決別の日は、すぐそこまで来ている。




教室に入ると、人の視線が突き刺さった。
ゆっくりと席へと着こうとすると、何人ものクラスメイトが駆け寄ってきて、
口々にどうしたのかと聞いてくる。
一晩中泣き続けた眸は充血し、目元は赤く腫れている。
白雪を思わせるルルーシュの白い肌のうえでそれは目立った。
ルルーシュとしては慣れない化粧や、蒸しタオルなどで隠したつもりだったのだけど、
完全には隠れていなかったらしい。
心配そうに覗き込んでくるクラスメイトにこれ以上詮索されないようにと、何も語らず笑顔をかえす。
その笑顔は何も聞かないでほしいという思いが痛いくらいに込められたもので、皆は何も言えなくなってしまう。
教室が冷たく凍る中、チャイムの音とともに担任が入ってくる。
早く席に着け、といつもの明るい調子で声をあげた担任は、
教室内の異常さに気づけなかった為かいささかこの空間で浮くことになった。
しぶしぶと席につく生徒達が全員各自の席についたのを見ると担任は急に真剣な顔になって、
言いづらそうなのをごまかすように、ごほんと喉をならした。


「あー、今日はみんなに残念なお話がある。
今日欠席している枢木だが…今週いっぱいで転校することになった」




教室がざわめく。
えー、という叫びを最初にどうして、いきなりすぎる、と声があがる。
ルルーシュもまさか今週いっぱいだとは思わなかった。
あまりの時間の短さに、呆然となる。
そして第三者からの言葉によって、これは本当に現実なんだということを突きつけられたような感じがした。
ルルーシュは密かにこれはスザクの冗談であることを祈っていたのだ。
嘘だよ、と笑いながら教室に入ってくるスザクを待っていたのだ。
俯くルルーシュの様子をちらちらと視線を送ってくるクラスメイト。
理由はこれなのかと納得するものもいた。
涸れたと思っていた涕がまたあふれてくるのを感じて、ルルーシュは必死でこらえた。




枢木は海外に行くらしい。
親父さんの仕事の都合でな。



多くは語らなかった担任だが、ルルーシュにだけはこっそりと教えてくれた。
道場主でもあり、大企業の社長でもあるスザクの父親。
スザクの話だと、彼はスザクへの興味は薄いらしい。
跡取り息子として生まれてこれなかったスザク、
そして早々に父親の期待にこたえることをやめたスザク。
あの人にとってはわたしは娘とかじゃなくてただの『道具』なんだよ、と諦めたようにでも寂しげに話していたスザク。

親父さんが今度取引をする会社がある国は、この国と折り合いが悪くてな。
取引を円滑に進めるために、枢木を先にその国へと行かせるらしい。
先方の息子さんも同年代らしいから、そっちの学校に通うらしい。
まあ、留学と銘打ったご機嫌取りだな。



ただの、道具。
スザクの笑顔が、ぶれる。

どうして、どうして言ってくれなかったの。
わたしに言っても何もできないことはわかっている。
だけど言ってほしかった。
父親よりもずっとずっとわたしのほうがスザクを知ってる。
ずっとずっとわたしのほうがスザクを愛してる!



だけどわたしはまだ子どもで、スザクもそうで。
諦めていても、親には完全に見離されたくなくて。
手を差し伸べられれば、一時だとわかっていてもすがってしまう。



わたしに触れたスザクの手は熱くて、わたしの躰もそれ答えるように熱く鼓動をうった。
あの日のスザクの裏にこんな秘密が隠されているなんて思いもしなかった。
言ってもらえなかったことが悔しいんじゃない。
気づけなかったことが悔しいのだ。


このには遺書が必要だ
(すきなだけじゃ、だめなのですか?)

To be continued…






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