ギアス

□世界がおわるそのときに、
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闇夜にうかぶ、二体の身体があった。
細くしなやかなそれと中年の男のもの。


男は自分が組み敷く者をみて舌なめずりをした。
黒いビロード地に金青の模様が入ったチャイナドレス、深く入ったスリットからのびる脚は白く細く、そしてしなやかで。
荒々しくすれば折れてしまいそうな腰、白いシーツを掴む細く長いゆびさき。
シーツに散らばる艶やかな濡羽色の髪、闇の中でも猫のようにひかる、鮮やかなアメジストの眸。
世界中のうつくしいもの集めてみても、この者ほど目を惹くものはないだろう。
黒豹のように妖艶で、黒アゲハのようにつかめないうつくしさ。


先ほどから触れば初々しくびくびくと反応を返す体が面白くてたまらない。
目をつけたのはこちらだが、誘ってきたのは自分だというのに。
慣れているのか慣れていないのか、どちらかといえば前者なのだろう。
平たい胸に手をすべらせて布地の上から小さな突起をつかめば、その体は弓のようにしなった。
さしだすようになった胸にこちらも布地越しに口付ければ、甘やかな吐息が零れ落ちる。
ひどくうつくしい…、そう、少年だ。
男は男色趣味はなかったが、ここまでうつくしい人間を女でもみたことはなかった。
人間でないとしたら妖怪か。アジアに伝わ、る人を惑わす狐のそれを思い出した。

男と少年が睦言のような会話をくりかえす。
会話の途中に少年の甲高い悲鳴のような嬌声がとびかう。毛に覆われた醜い手が少年の体を撫で回す。
いくつかの睦言のあと、少年の表情がさっとさめる。先ほどまでの熱にうかされたものとは違った表情に男は
不思議そうに少年の顔を見下ろした、闇に煌煌とひかる鋭い刃に気づけなかった。
何かを抉る鈍い音と、息をとめる音、うめき声。何かが噴出す音、どさり。



落ちてくるものの重さに少年は顔をしかめると、まるでごみをどかすように乱雑にじぶんの上からなぎはらった。
ゆっくりと体をおこし、乱れた髪を手ですく。そこにはさっきまでの淫靡な雰囲気はどこにもない。
サイドスタンドの明かりをともすと、すこしだけ室内が明るくなった。

ベッドの端へと追いやられた男の首筋にはナイフがつきささっていた。
少年はそれを一気に抜き取る。
ぶしゅっ、と音をたてて血が流れ出して白いシーツを赤く染め上げる。
抜き取るさいに、飛び散った血が少年の頬にかかった。それにかまわず少年はベッドから降り、部屋に入った際に置いたバッグから携帯をとりだすと、
なれた手つきで番号を入力する。すこしの間コール音が続く。



「……任務、完了しました」
『すぐにそちらへと向かう。コードは打ち合わせどおり』
「わかりました」




通話をきってからすこしたって、ドアをたたく音が聞こえた。
少年はドアまで近づいて、ドアの向こうの人物を確認する。ホテルの使用人の格好をした男がひとり、メイドの少女がひとり。




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