ギアス
□スターゲイザー
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闇のカーテンにつつまれた空では、きらきらと星が輝いていた。
まるで彼らをみまもるように、何光年もまえから。
「あれがはくちょう座だ」
「は?どれだよ」
「だからあの大きな十字架型の…」
「わかんねーって」
「なんでわからないんだこの馬鹿!」
「馬鹿っていうな!」
すこし湿った草の上に寝転がって、夜空をゆびさす。
皆が寝静まったこの時はとても静かで、あたりに明かりは星の光と月の光だけであった。
枢木神社のすぐ近くにある野原でふたりは天体観測をしていた。
スザクが学校からだされた宿題に付き合え、といってきたのだ。
ルルーシュはナナリーを寝付かせ、スザクは学校で配られた星座シートと懐中電灯もって、
ふたりは闇夜の野原へと向かった。
スザクはぱちりと懐中電灯の光をともし、青い星座シートを難しい顔で覗き込んだ。
闇夜に一点の光がともる。
はっきりいって、使い方がよくわからないのだ。
先生の説明なんて聞いていなかった。教科書の説明なんて読んでも絶対わからない。
「スザク、それ貸して」
「ん、」
「…スザク、お前がみてたの裏面だ」
「え」
「これじゃ見れるものも見れない」
そういってルルーシュはそれを正しい使い方で、そういえば先生もそんな事言ってたな、とスザクが思うほど正確にそれを
使いこなした。
よし、というルルーシュが身を起こしてスザクのすぐ横に寝転びなおした。
「な!くっつくなよ!」
「うるさい、くっつかないとスザクはわからないだろう?」
「う……」
「ほら、」
頬と頬がくっつくほどにルルーシュの顔が近くにある。
ふわりと、汗のにおいと石鹸の匂いがした。その匂いにどきりとする。
(なんだろう…)
胸がばくばくとうるさい。ルルーシュが近くによればよるほど、その音は激しくなっていく。
心臓が壊れたんじゃないかって思う。そういえば、寿命が短い動物は鼓動が早いからだと聞いたことがある。
だったらこのままじゃ自分は死んでしまう、そう思ってスザクはぎゅっと瞼をきつく閉じた。
「スザク、目をあけて、わかるから」
ルルーシュの教え諭すような声に反応してスザクは瞼を開けた。
ゆっくりと開くと一瞬ちかちかとしたが、すぐに飛び込んでくるのはさきほどと一緒の星空。
ルルーシュがスザクと自分の上に星座シートをかざし、空上のそれと合わせる。
「ほら、あの明るい星。わかる?」
「わかる!」
「あれがデネブ、一等星だよ。あそこから、これとこれをつなぐと…」
「あ、大きな十の字」
「そう、それがはくちょう座」
「………」
「なんだ、不満そうだな」
「だって白鳥にみえない」
「僕だってみえないさ。でも昔の人は白鳥が羽を広げてるようにみえたんだって」
「すっげー想像力」
たしかに、とルルーシュは笑った。
ブリタニアにいたときに教え込まされた知識は豊富で、ギリシャ神話もはくちょう座のデネブの近くにみえる星雲の形が
ブリタニアの形に似ていることもスザクに説明することができる。
できるけれど。それは、第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに教え込まれたものだ。
今の自分はただのルルーシュだ。スザクの前では、兄でもない、敵国の皇子でもない。ただのルルーシュだ。
ただのルルーシュは、こうやって空を眺めていることがとても素敵なことに感じるのだ。
マリアンヌがまだ生きていたころ、義妹のユーフェミアとナナリーとマリアンヌとそしてルルーシュでこうやって寝転がって空を眺めたりした。
あのころとはまた違う、しあわせをルルーシュは感じていた。
ざわりと草木がうなり声をあげる。風が野原を駆けあげた。まるで駿馬のように。
その風をルルーシュは気持ちよさそうに目を細めて喜んだ。
その姿をスザクがうかがうようにみている。
そしてぱっと横を向いて視線をそらした。
(な、なんで!おれいま…)
顔に熱が集中していくのがわかる。
やばいやばい、夜でよかった。これなら万が一のことがあってもばれる心配はない!
(かわいいとか、思っちゃった!男なのに!)
隣で、ルルーシュが他の星の名称を呟いていく。
そのさらりとした声が耳をくすぐるたび、スザクは言いようのない衝動にかられて目が回りそうになった。
「あれがアルビレオ、くちばしの部分。あれは一個にみえるけど実は望遠鏡とかでみると二重なんだ。
この国の昔の小説家はあれをサファイアとトパーズに喩えたんだろ?」
「しら、ない!」
「…結構有名な本らしいじゃないか。僕はまだ読めない漢字が多くて楽しめなかったけど、スザクは読めるだろう?」
「ルルーシュが読めないのに、おれが読めるはずがない」
「威張ることじゃないだろ」
ぷっとルルーシュがくすくすと小刻みに笑う。
小さな体をややまるめて笑う姿はあいらしいもので、スザクはそっと抱きしめたい衝動をこらえた。
まだわからぬ感情が、胸を焦がしていた。
痛いとも苦しいともいえるこの胸のしめつけ、名前はまだ、知らぬ思い。
星々が幼いふたりをみまもっていた。
スターゲイザー
(これが何という感情なのかもしらない、幼き子よ。
それはその星の名前がきまるずっと昔からあって、今もなお正確に答えられる人はいない。
そう、その名前は…)
>>End.
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