ギアス

□コッペリアのくちびる
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ルルーシュはきれいだと思う。
同性の自分から見てもそう思う。中学のときから男子には人気があった。
だけどルルーシュのはなつどこか触れてはいけない儚げな花を思わせる雰囲気のせいか、
ほとんど見ているだけでおわったようだ。
高校に入ってからも同じ。わたしはルルーシュのそばにいる。だからわかる。
男達の汚い欲望のまなざしを。それがルルーシュに向けられているとおもうと吐き気がした。


制服のまま、彼女は踊っていた。
紺足に乳白色のトウシューズを履いて、夕方の体育館で踊る。

タンタン、とすこし固めの音がひびく。音楽もない、チュチュも着ていない。飾りも、ブラボーと拍手と歓声をくれる多くの観客もいない。
夕暮れの光が差し込む体育館はオレンジ色にそまる。そのなかで、静かに踊るルルーシュはひとつの絵画のようにうつくしかった。
何もなくても、彼女はかすむことはない。


彼女のジュテはそんなに高くない、わたしより高くないのに。でもどうしてだろう、羽がはえたようにふわりととぶのだ。
つま先まで神経がいきとどったピルエット、けして気を抜くことなく、つま先から指先まで。
幼少の頃からふたりで続けているバレエはルルーシュの優雅さをいっそう高めた。
チュチュや練習着の黒いレオタードよりも、今のセーラー服で踊っている方が色っぽくみえる。
紺色のスカートからのぞく白い脚にぞくりと背に何かがはしった。



「…っ、はぁ」
「おわり?」
「ああ、なんかすっきりした」
「そっか、あ、水のむ?」
「飲む。ありがとう、スザク」
「いーえ」



こくりと、白いのどが私の飲みかけの水をこくりと嚥下する。
赤い唇が、濡れてつやつやしている。
何かがあふれてとまらなくなる。わたしの胸には花がうまれる鉢があって、それはわたしの感情によっていろいろな色の、いろいろな種類の花をうみだす。
今、わたしの胸にさくのは真っ赤なアネモネ。
ひらひらとわたしの心がゆさぶられるたびにはなびらをおとしていく。
少年の血からできたというその花が、わたしの胸にさくというのはなんと無情なことだろう。
わたしは女で、ルルーシュも女だというのに。わたしは男はあまりすきではないけど、男になりたいとおもったことなら数えきれないほどにあるのに。
体育館の壁に背をあずけてわたし達はすわった。今日は部活がない日だっけ、とぼんやりと思い出した。




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