ギアス

□恋という文字の由来
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「あれ、早いね」




突然の声にあたしは現実に引き戻されたように、はっとした。
後ろを振り向けば、長い髪をひとつに結んだシャーリーがいた。
あたしはあせった。
あたしは何もしてないのに、彼らのことがばれるんじゃないかと思って心臓がはねた。
副会長のことをすきなシャーリー。
彼女も傷ついてしまうんじゃないかって思った。
そしたらどうしていいのかわからなくなって、うまく声がでなかった。



「暑いよねー、早く教室入ろうよ」
「あ…っ」



シャーリーが勢いよくドアをあけた。
その音が頭のなかで鳴り響いた。
ちょうどシャーリーで見えない、教室の中。
暑さからの汗ではなく、緊張からの汗が背筋をとおった。



「あれー、ルルもスザク君もはやーい!」
「おはよう、シャーリー」
「おはよう、ルルーシュに数学教わってたんだ」
「そっかー」



あたしは何度か瞬きをして、目の前の光景をのみこもうとした。
普通に、適度な距離を保つ二人。
それに駆け寄るシャーリー、いたって普通の光景。
あたしがみたあれはなんだったのだろう。


暑さゆえの蜃気楼か、はたまたあたしの妄想か。
後者だったらあたしも終わってる。同級生でそんなことを考えるなんて!
ソフィの電波があたしの脳にまで影響を及ぼしている!
おおおお、と認めたくない仮定に頭をかかえているとシャーリーが不思議そうに、どうしたのー?
と声をかけてきた。



「廊下は暑いだろう、早く教室に入ったほうがいいぞ」
「そうだよ、こっちはクーラーきいてるし」



あまりに普通な二人の態度に、あたしの見間違いの確率がぐんぐんあがっていく。
せめて暑さからにしてくれ!とあたしは心の中で祈りを捧げた。
一歩踏み出すと、ひんやりとした空気が体をまとう。
ずいぶんと体が熱をおびていたことを知る。
すーと汗がひっこむ感覚に、あたしは気持ちよくて目をとじた。



「僕、基礎クラスだったから隣のクラスに行くね」
「あたしも普通クラスだから移動しなくちゃ。じゃーねー」
「ああ、」





シャーリーが、じゃあ後でねとあたしの横を通り過ぎた。
彼女に一声かけようと振り向きかけた瞬間、編入生、もとい枢木くんがすぐ横をとおった。
そして、




「さっきみたのは内緒、ね」




そう小声でつげた。
たぶんあたしにしか聞こえてないだろう。
驚いて彼を振り向けば、枢木くんはいたずらな笑みをうかべる唇に人差し指をあてた。
あたしの体はぴしりと音をたてて止まってしまった。
二人が出て行って、副会長のランペルージくんと二人っきりになってもあたしは動くことはできなかった。



「…?どうかしたのか」
「い、いえ、べつに…」



ランペルージくんはいつもの窓際の席について、ぼんやりと外をながめだした。
その横顔に、さっきの泣きそうな顔がだぶる。
さっきの光景は見間違いでも妄想でもなくて本当で。
たぶん、あたしがいることに気づいていたのは枢木くんだけだったのだろう。
目の前のランペルージ君には微塵の動揺もみられない。
じっとみつめるあたしの視線に気づいたのか、彼はどこか困ったように眉をさげてあたしをみた。



「…俺に何かついているか?」
「いえ、完璧なパーツ以外なにも」
「なんだそれ」



おかしそうにランペルージくんがくすくすと笑った。
さっきの枢木くんのあれはきっと牽制なのだろう。
あたしにはランペルージくんに対する恋心はないけれど、だからこその予防線。
自分のものだと、そう目がいっていた。
あいにくあたしは口が軽い方ではないので、このことを誰にもしゃべらないだろう。
ランペルージくんが悲しい思いをして、妹さんが悲しむことはあたしもいやだ。
でも枢木くんはきっとあたしがしゃべっても構わないと思っている。
あたしはあの笑顔にかくされたどこか獰猛な猛禽類の顔をみてしまったような気がして、
いたたまれなくなった。
とんだものをみてしまったものだ。



「枢木くん、学校が楽しそうでよかったね」
「……ああ」



何気ないあたしの言葉に、こんな顔をする。
枢木くんの気持ちがすごくよくわかった気がする。
好意をもっている人に対しては彼はとてもやさしい顔をする。
自分にもこんな顔を向けてほしいと、願ってしまう。
望んでしまう、欲張って、踏み込んでしまう。



いとしいいとしいとあたしの心が悲鳴をあげた。
でもそれはだんだんと落ち着いて、消えていった。
ほんの一瞬、あたしは手を伸ばしかけてしまった。
かれのこころがほしい、と望んでしまった。
感情は消え、鈍く痛む焼け跡だけをあたしの胸にのこした。




という文字の由来
(戀…いとしいいとしいというこころ)



>>End.


***
第三者視点です!
季節外れもいいとこですね。
ただのクラスメイト視点な感じは一度やってみたかったのです。
夏に書いて、煮詰まって、放置していたのを発見したので加筆修正を加えて今出しました。
今しかできない、1期スザルルを消化しておこうと想います!
ちなみに『戀』という文字は『恋』という漢字の昔のやつです。

…教室のドアが自動だった気もするけど気にしない!!




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