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□愛の夢
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夢の中で俺は見知らぬ男にとても愛されていた。
その男はとても甘い言葉で俺を包み込んで、やさしく俺を抱いた。
俺はうれしそうに笑ってその胸にすりよった。

その夢の直後にまた違う夢。


今度はさっきの男とはまた違う男。
やはり見知らぬ男に愛されていた俺はやっぱりその男を愛してた。
戸惑いがちに触れてくる指先がうれしくて、宝物扱いされてるのが気分がよかった。

瞼に落とされる口付けに俺は目を閉じた。




「だけどさあ、夢から覚めた俺は全然うれしくなかったんだよ」
「……はあ?」



わけがわからないと眉を顰めるシズちゃんの眉間に指をやると、やめろと手をはらわれた。
だってうれしくなかった。
俺は愛していた。夢の中の見知らぬ男たちを確かに心から愛していた。
甘い言葉も触れてくる指先も、すべてを愛していた。
だけど夢から覚めたら隣にシズちゃんがいて、その寝顔をみていたら、夢の中の嬉しさなんて微塵も残っていないことに気付いた。



「勝手に浮気しておいてそれはねえだろ」
「浮気って、勝手に夢に出てきた男たちだよ?
カウントされないでしょ」
「お前が悪い」
「あーはいはい、俺のせいですねー」



むかつく、と後頭部をつかまれひきよせられる。
瞳を閉じれば唇に甘い感触。
この男は甘い言葉も優しく触れることだってしないのに。
なのになんでこんなに今は嬉しいんだろう。



「…シズちゃんのせいだ」
「あ?」
「シズちゃんが俺の夢に出てきてくれないから、
だからあいつらが出てきたんだよ」



嬉しくない嬉しくない、だってそんなものいらなかった。
手首がきしむほどに強く掴まれた時の痛みとか、それでも壊さないように一生懸命セーブする指先だとか、ずけずけとおれの心を踏み荒らす容赦ない言葉だとか、不満気にしわのよった眉間だったりとか、


そんな現実が俺は、ひどくいとしいのだ。



の夢
(あなたのほうがいとしい)



ただのばかっぷるである。


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