幻想小説 U

□57。
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奇跡を信じるか。


いつだったか忘れてしまう程の遠い昔に、誰かにそう問われたことがある。


運命とは何か。


続けざまに、そうも問われた。

あたしは、奇跡も運命も信じたりしない。
そんなものは存在しない。
永きを生きながらえた自分自身が、一番よく知っている。

奇跡も、運命も、信じていたって仕方がない。
それは自らの軌跡の結果に過ぎず、信じているだけで起きてくれる程都合のいいものなんかじゃないのだから。


「朱い月、か。」


見上げると同時に軽く溜め息を吐けば、背後のドアが、軋んだ音を立てて開いた。
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