*Le soleil*

□ヘンリーの逆襲
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−ピィッ・・・−



「はい、何でしょうか」

「喉、渇いた」

「紅茶、それとも」

「コーヒー・・・」




−ピィッ・・・−



「汗かいた」

「シャワー、それとも」

「お風呂入る・・・」




−ピィッ・・・−



「今度は・・・」

「お腹すいた」

「何か買う?それとも」

「外で食べたい・・・」




−ピィッ・・・−



「・・・・・」

「・・・・・」

「今度は何・・・ていうか、いい加減、機嫌直してよー」

「・・・チカさんが悪いんやもん」

「ゆみこだってしたじゃない」

「あれは、チカさんのお誕生日をお祝いしたかったから」

「私だって、千秋楽をお祝いしたくて」
「嘘ばっかり」



「なんで嘘になるわけ」

「千秋楽のお祝いにサンバステップ踏ませるなんて、おかしいもん」

「お客様が楽しんでくれるかな〜って」

「チカさんが踏めばええやん」

「ゆみこが踏んだ方が喜ばれるかなって」

「なんで」

「笑顔で可愛くサンバステップを踏んでくれそうで」



「・・・単に、」


「あー、そうです。単に私が見たかっただけです」




毎回アドリブの呪文の場面。

打ち合わせでは、セーラームンのバージョンアップでいくはずだったんだけど

ネコタナ役のかぐやが見事なサンバステップを披露してくれて

その時にピーンときた。これ、いい!って。



ゆみこ、、じゃなくてヘンリーが踏んだら可愛いだろうな。

そういう思いもあったけど、何より、ね。

私の誕生日の時、相当だまされた&驚かされたので。

私だって、わっと驚かせたいなーって思って、つい。



ゆみこは予想通り驚いたけど、でも笑顔で軽やかにステップを踏んでくれて

お客様も爆笑、客席から温かい拍手も頂けた。

驚きつつも柔軟に対応してくれる、ゆみこヘンリーならではのアドリブだったけど

私は、良いアドリブだったなーって思うんだよね。

ゆみこも怒り笑いしながら、呪文が書いてある巻物の紙でバシバシ叩いてきたけど

次の場面のヘビを探すところでも「仕返しします!」って大声で宣言してたけど

でも、笑顔だったのに。もーって言いつつ、楽しんでた気がするのになぁ。



公演が終わった後、楽屋出を終えて家に帰ったら

なぜか、ゆみこがいて。




『どうしたの?』

『来ちゃダメでした?』

『ううん、嬉しいけど・・・』



来る時はいつも、今日行きますねって言うのに。

そう思いながらも、やっぱり嬉しいからソファに座るゆみこの隣に行くと

だんだん、だんだんと唇が尖って眉間が寄せられて。




『私がサンバステップ踏めんかったら、どうするつもりやったんですか』

『その時は私が』

『じゃあ、最初からチカさんが踏めばええやん』

『それドッキリの意味ないでしょ』

『それだけで充分驚きます』

『言わせてもらうけど、そんなに拗ねるようなこと?』

『・・・・・』




というより、悔しそうにみえる。

ほんっと、負けず嫌いなんだから。

でも、それだけ驚いてもらえたんだと思うと、思わず顔がニヤついてしまう。





「どうしたら機嫌直る?」



機嫌を直してもらえるよう、とりあえず今日は

私が執事として言う事を聞いてあげる、ということになってるんだけど。




「・・・仕返しして成功するまで」

「えー、無理。せっかく少しお休みあるんだから、
 一緒に出かけたりしたいのに、ずっとそんな顔されてたらヤダ」

「ハマコさんとイグアスでも行ったらどうですか」

「ちょっと・・・」



お茶会でハマコも連れて行く発言を、どこからか聞いたのか。

や、だってね。ハマコも行きたいって言ってたし。

ゆみこだってハマコと仲良いんだから、3人でっていうのもいいかなって。

まさか、そこも拗ねた顔の火種になるとは思わなかった。





「ゆみこー・・・」

「何でも、、してくれる?」

「え・・・まぁ、できることなら」




−ピィッ!−



「アルバートのサンバステップが見てみたい・・・」




今までで一番強めにサンバホイッスルを吹いたかと思ったら。


舞台上でこれを要求されないといいな、と思いながら

舞台上のゆみこに負けないくらいの笑顔で軽やかに

自分の家のリビングで、サンバステップを踏んだ。



ゆみこはイタズラっ子のように、楽しそうに笑うから

ゆみこが機嫌が悪い時は、サンバステップでも踏むか。なんてね。





fin.
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