*Le soleil*

□My Sweet Birthday
2ページ/3ページ

私も早く寝ないと。

明日、というか正確には今日のコンサートのために
万全の体調で望みたいし、疲れも溜まってるし。


でも…もうちょっとだけ。

後ちょっと、待ってみたい。



〜〜〜♪


今度こそっ。

ディスプレイを確認すると、顔が自然と綻ぶ。



「はいっ♪」

「…すごいテンション」



だって、待ってたんですよ。
すごくすごく、心待ちにしてたんやもん。
大好きな人の声が聞きたいって。
あと何時間か経てば会えるって分かってても…
今日2人きりで過ごすのをガマンしちゃった分、せめて声が聞きたくて。



「やって、嬉しいんですもん」

「今日一緒に過ごそうって言った時は、そんな素直な反応はなかったけどね」

「う…それは」

「私の体を心配してくれるのは有難いけど、
 誕生日に独り占めっていうのも、恋人の特権だと思ってた」



だって、コンサートがある。

会いたい、なんて、言えなくて。

チカさんが一緒に過ごそうって言ってくれて嬉しくても、
何だかすごくワガママなことをしてるように思えて。



「そろそろ、素直になってほしかったりするんだけどな」

「……」

「そんなに体弱そうに見える?」

「そうやないですけど…でも、もうこんな時間やし」

「だから?」

「だから…声が聞けただけでも嬉しかったです」

「そう。じゃあ、帰ろっかな」

「え?」

「せっかく来たけど」

「それって…」

「じゃあ、また明日ね。って、もう今日か。
 寝坊厳禁!じゃあ、おやすみ〜。」

「え、待ってくださ…!」


そう言って、電話が切れてしまった。

もしかしたら。

慌てて、携帯を握り締めたまま玄関へと向かう。



「あ、」


勢いよくドアを開けると、チカさんが居て。
見つかっちゃった、なんて可愛らしい笑顔で言う。



「なんで…」

「意地はってるのかなーって」

「そんなこと…」


ありました。


「でも、声聞けただけでもいいって言ったから帰る。
 深夜に何してんだかって感じだけど」


会いに来てくれたことが嬉しくて。

コンサートがあるからって、体に響くかもって
もう、色々と思うところはあるのだけど。


無意識だった。



「…何?」

「か、帰らないで…ください」


帰ろうとするチカさんの服の裾を、がしっと掴んでいた。
そのまま、自分の家の中へと引き入れる。


「私の体、心配なんでしょ?」

「そ、れは…そうですけど」

「コンサートもあることだし」

「………」



会ったら、ガマンが出来なくなって。
ワガママだって分かっていても、抑えがきかなくて。



「一緒に…少しの時間でもええから、いてください」

「ほんの少しで、、ええから」



情けないことしてる。
今日は一緒に過ごさないって決めたのに。
コンサートで一緒にいられるからって。
でも、こうやって会いに来てくれた。
チカさんを帰したくなくなるのは、どうしたって思ってしまう。



「素直になってくれるなら、最初からなって」


まるで、子どもをあやすみたいな優しい声で
ぎゅっと私を抱きしめながら言う。


「ごめん…なさい」

「少しって、どれくらい?」

「チカさんが…いてくれるだけ」



もしかしたら、本当に数分で帰っちゃうかも。
そう思ったら、今のうちに素直にならなきゃ。
背中に回した腕に、力を込める。



「…帰りたくなくなるんだけど」



チカさんの困ったような声。
でも、その響きさえ嬉しい。



「じゃあ、、帰らんといて」



ゆっくり顔を近づけて、瞼を閉じる。


「…急に、素直になりすぎるの、やめてね」


優しく、唇を何度か触れ合わせて。
体を離したかと思うと、手を繋いで2人で部屋へと向かう。



〜〜〜♪♪


握り締めていた携帯が、手の中で震える。


「あ、お母さんからや」

「日付が変わって間もない時間に送ってくるって、愛だねー」

「朝になったら返信しよっと」

「え、今じゃなくていいの?」

「今したら怒られる。明日コンサートでしょ!
 何遅くまで起きてんねん!って」 

「あははっ。そっか」


ごめんね、お母さん。
まだ、寝るつもりはないけど…コンサートは変わらず頑張るよ。

今は、好きな人と過ごす大切な時間を
欲張って、過ごせる限り一緒にいたい。


「ゆみこのお父さんとお母さんに、感謝しないと」

「え?」

「ゆみこを、この世に誕生させてくれて、ありがとうって」

「え、や、そんな」

「テレないテレない」


あ、2回言う癖。



「言うの遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとう」


「…ありがとうございます」

「知ってると思うけど、変わらず、好きだから」



お父さん、お母さん、ありがとう。

産んでくれて、育ててくれて、愛してくれて。


2人のおかげで、今、生きている。
大好きな人たちと、愛する人と一緒に。



「私も、大好きです」



大好きな仲間や、ファンの方や、お客様と会う前に。

一年に一度の自分の誕生日を、愛する人と今年も過ごせる幸せに浸って。


隣で微笑んでいる、愛しい人の胸に飛び込んだ。



fin.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ